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2013.01.24

マジラバ第10話 後編②

※多少の下ネタ注意。

竜星はすぐに立ち上がった。
そして不二里ナツメに向き直る。
「黄色チーム、だったな。捕まえるのも仲間の援護もしないで何やってやがる」
ナツメは笑う。
「必死こいて街を駆けずり回ってもどーせこうなることは解ってたんで、こっそりここに居させてもらったのさ。お前を捕まえるためにな。」
「なるほど良い場所だ。ここならどんな魔力も侵入できないし、俺の真下に居るならいつでも攻撃可能だったわけだ。」
華夜(司会)の冗談を実践した形だが、玉蓮院が留守中の今なら、また玉蓮院に特に敵意を持っていない、かつ彼女より弱い人間ならば可能。
「だが何故今になって攻撃する?」
「スコアが上がるだろうが。誰も捕まえてない奴より沢山捕まえた奴を捕まえた方がさ。」
「想像してたより一級魔導士に向いてるな、お前。」
竜星は笑った。
「さて、二年前の礼でもさせて貰おうか」
不二里が言う。
「お前から仕掛けてきたんだろうが。」
竜星は心外だと言わんばかりに返す。
「天魔連にいちゃいけない人間だからだ!俺にはわかるんだよ、カンでな」
竜星は暫く黙った。それから大笑いした。
「お前が俺の何を知ってるって、ちょっと不安になったらカンかよ!下らねー、それで一々食いもんに下剤盛られちゃたまんねえよ。ちょっと仕返ししたら二年に渡って恨まれるとか」
「やかましい、食堂や教室や自分の部屋で座るたんびに剣山が飛び出てくるのが一週間続くのどこが『ちょっとした仕返し』だ!あれでノイローゼになったんだぞ!」

「あーそりゃやりすぎだわ。」
「まごうことなき人でなしですね」
屋根の上で様子を見ていた樋口、諸星が呟いた。
「自業自得だろうが。」
全く反省の色が見られない竜星に、不二里はフラスコの栓を魔力だけで抜いた。
「お喋りはもう良い。お前を、この俺の最強の切り札で倒してやる。」
フラスコの口から、ものものしくショッキングピンクの濃厚な靄が溢れ出してきた。それは一瞬、竜星の視界を覆うほどに拡がるかと思われたが、だんだんと一箇所に集まり、そして…
「呼ばれて飛び出てスラ子ちゃーん!!」
ぷりんっとした質感、丸いフォルム。硬いゼリーでできたような身体。つぶらな瞳。つるんとした頭にはちょこんと、某国際的人気の白猫型キャラクターが着けているような赤い蝶リボンが乗っかっていた。
不二里は自信満々に叫んだ。
「これぞ、フラスコの中のスライム小人…略して、スラ子だっっっ!!!」
「…」
竜星は絶句した。それから盛大に噴き出した。
「それが、お前の切り札?その、ピンクのスライムが?!大人しく研究室に引っ込んでそいつ揉みしだいてろよ、できないであろう未来の彼女に見立ててさ!!」
「ふっ…そうして笑っていられるのも今のうち…ついでといっちゃあ何だが、鈴音ちゃんも賭けさせてもらう。」
「?何で鈴音が出てくるんだ?」
「お前みたいのと一緒じゃ、彼女が可哀想だからな」
それを聞いて怒ったのは、竜星…ではなくて、不二里の味方であるはずのスラ子だった。スラ子はぐいーんと背を伸ばし、不二里の身体にまるでコブラのようにきつくきつく巻き付いた。
「ナツメくん私を差し置いて~っ!」
「いててててやめろーっ!!」
「…ガチで、彼女なのか…」
「…っ、スライムだっつーの!」
なんとかスラ子を振り払った不二里が、吐き捨てる。
こいつが何で、どうして鈴音と知り合ったかしらないが、随分と鈴音に入れ込んでいるようだ。となれば。
竜星はニヤリと危険な笑みを浮かべた。
「残念だったな、悪いが鈴音と俺の仲はもう引き裂けねえぜ。」
「な…?」

樋口、諸星もこの言葉には唖然とした。

こいつ、特定の好きな女いたのか。

竜星はニヤニヤと笑っていた。
「何を隠そう俺と鈴音は、『互いに裸を見た仲』だ。それが何を意味するか、『カンのするどーい』不二里くんには解んだろ。」
…本当は文字通りそれだけなのだが。第9話を参照されたし。
「うなっ!」
「どんな感じか知りたーい?教えてあーげない。」
不二里が顔を真っ赤にしてわなわなと震える様子を楽しそうにみながら、竜星は嫉妬を煽る言葉を並べる。

「真っ昼間っからなんつー…」
「あーはなりたくないですね」
『可愛い彼女が欲しい』が一級魔導士の志望理由の一つのくせに、あからさまなトークに引き気味の樋口、諸星。

不二里は鬼のような表情をして、フラスコを地面に下ろし、抱えあげた。
「決定!貴様ぶっ殺す!!」
不二里のフラスコから伸びだしたスラ子は、突如として機関銃のように激しい動きで竜星に襲い掛かった。不二里の意志でスラ子を動かしているのだ。スラ子が地面に何度も何度の激突するため、柔らかい地面が抉られてその辺り一体にぶあっと茶色い土煙が上がる。縦横無尽に動くスラ子の残像と土煙で、不二里と竜星の周りの空気がピンクと茶色に染められたように見えた。
「このスラ子はお砂糖とスパイス、そして777種類の毒物で構成されている!その毒物の中から相応しい毒を選んでお前を仕留めることができるんだ!!」
この攻撃の中でまさか逃げられることはないだろうとタカを括ったのか、幾分得意げに叫ぶ不二里。しかし、スラ子の透明なピンク色の身体は竜星を取り込むことは出来なかった。竜星は軽々と、スラ子の全ての攻撃を交わしていた。
「怒りで矛先がずれてるぜ」
不二里のすぐ後ろに、音もなく現れた竜星は嘲るように笑った。
「怒らせて心を乱すなんてのは戦略の基本中の基本の筈だがな」
「っ!」
不二里は激昂して、竜星の目でも潰そうと思ったのか杖を握った手を勢いよく突き出してきたが、薬品科の魔導士が戦闘科出身の魔導士に体術で敵う訳もなく、あっさりと交わされてしまった。それどころか竜星は、不二里のその手首を右手で掴んで動きを止めてしまった。竜星は自分より少し背の低い不二里を見下ろし、冷ややかに微笑みながら言った。
「今度は俺が仕掛ける番だ」
竜星の左手から、パリパリと音を立てて青白い光が放たれる。
もう終わりだ。
不二里は悔しそうに竜星を睨みつけた。その光がどうやら鎖だと思われる物体の形をとり始めたとき、高い少女の声が二人の耳元で聞こえた。
「不二里くん、私に任せて!」
「え?!」
二人が声の出処を認識する間もなく、周りをピンクの霧が取り囲んだ。霧の粒子はあまりに細かく、竜星は避ける暇を与えられなかった。吸い込んだ霧が引き起こした焼ける様な肺の痛みに、竜星はがくんと膝をついた。
「かはっ…」
喉の奥から生臭いものがせり上がってくる。竜星が咳き込むと同時に、それは赤く生ぬるい液体となって口元から流れ出した。
「い、一体…」
突然苦しみだした竜星を怪訝そうに見下ろしながら、不二里はつぶやいた。それに対し、少女のようなスラ子の甲高い声が不二里に答えた。
「霧状に体を変化させて毒を吸引させたの。この形状だと使える毒は限られてしまうけど、それでもなかなかの威力でしょ?」
不二里はそれで全てを理解したようだ。
「でかしたスラ子!」
不二里は勝ち誇ってニヤリと大きく嗤い、どこからともなくロープを取り出した。
「くっ!」
竜星は不二里を睨みつけ、渾身の力で飛び上がり、へろへろとおぼつかない動きながらどこかに飛び去ってしまった。
「あっ、待てっ!!スラ子、追うぞ!!」

「はぁ、はぁ、はぁ…」
竜星は息も絶え絶えといった様子で、今は使われていない静かな校舎の廊下を歩いていた。生物室や薬品実験室が集められている校舎だ。
盛られた毒は、おそらくドクウツギの実をベースに作られたもの。

あの変な生物、『なかなかの威力』なんて言ってこんな物騒な毒物ひとに使いやがって。

俺でなけりゃ今頃死んでたぞ、とぼやきながら竜星はあるものを探していた。空っぽの教室に入っては黒板のあたりに重点的に視線を走らせ、失望しては次の教室に取り掛かる。しばらくエレクトリカーも妖魔も通う学校を活動の拠点としていたせいで、その探し物が天魔連では意外に使われていないことに竜星は驚き、またこの状況下では焦りを感じていた。それは、自分では作れないものなのだ。

「血がまた垂れてる…こっちだな」
風に紛れて、遠くから不二里の声と足音が聞こえてきた。

ぬかったな。

いつもなら気づけるはずのことなのに、毒薬の効果で思考力が落ちていたせいか、すっかり忘れていた。竜星は急いで制服の袖口で血を拭った。
まだ気づかれる訳にはいかない。
声の距離から言って、そう近くにいるわけではないようだ。
竜星は校舎の一番端である歴史資料室と思しき教室からするりと抜け出し、少し足早に上の階に向かった。

不二里は誰もいない校舎を、十メートルに一滴くらいだが、よく観察しながら歩けば竜星の足取りが確実に解るように転々と連なって落ちている血痕を辿りながら考える。

確かここは、今は使われていない古い実習棟だ。あいつ、何を思ってこんな人気のない校舎に来たんだ。

竜星の血痕以外は、床を白い埃がうっすらと覆うのみの、見渡す限り寂れた校舎であった。

神崎竜星のことだ、何か恐るべき罠でも隠されているんじゃないかと内心びくびくしながら、少しずつ竜星に近づいていく。
「私が先に行って見てこようか?」
不二里の背負うフラスコに繋がったまま、不二里の傍らに寄り添うように漂うスラ子が心配そうに訊いた。不二里は首を横に振った。
「いや。下手にお前を動かして壊されたらかなわん。お前はまだここで待機してろ」
スラ子は「そーゆーことのために私がいるのにー」と嬉しさを隠しきれない様子で唇を尖らせた。
「それじゃあ、身体の一部だけ偵察に出しましょ。そうすれば大丈夫」
スラ子は全体の四分の一ほどを霧状に変化させ、嬉々として少し先の高学年用生物室に入り込んだ。
しばらくは何も起こらなかった。しかし、スラ子の一部が教室に入ってから一分ほど経った頃、キャーッと鋭い悲鳴が聞こえた。
「どうした?!」
不二里がスラ子(残り)と一緒に教室に駆け込むと、そこにスラ子(一部)の姿はなく、代わりにさっきうっかり逃してからずっと探し求めていた姿を見つけた。そいつ、神崎竜星はニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら教壇に凭れるようにして立っていた。左手で教壇の机の角に掴まり、右手は後ろに隠している。
「貴様っ!スラ子をどうした!!」
スラ子が叫んだのは、こいつが何かしたからに違いない。姿を見せないのもそう出来ない理由があるのだ。
竜星は済ました顔で右手をおもむろに自分の体の前に掲げる。竜星の右手には、真っ黒いどろりとしたゼリー状のものがべったりとまとわりついていた。
「な…」
不二里はあまりに不気味に変わり果てたスラ子に蒼白になった。言葉すら発することができなくなってしまったようだ。大切な武器がちょっと目を離した隙にそんな訳のわからない状態にされてしまったのだ、驚愕するのも無理はない。しかし、不二里の傍にいるスラ子の残りが受けたショックに比べれば、そんなのは対した反応ではなかった。
「キャーッ、イヤーッ!!」
スラ子は悲鳴を上げ、フラスコに一目散に飛び込んだ。そうなってしまえばもう、フラスコを割り砕く他スラ子に危害を与える方法はない。
「そのスライムの全部を偵察に使わなかったのはいい考えだったな。」
竜星は面白がっているとさえ言える調子で言う。
「スラ子に、何をしたっ!!」
不二里は怒り狂って竜星に詰め寄った。竜星は何も言わずに黒板に張り付いている黒くて小さくて平たい何かを掴み、宙に浮かべて、魔力で操作し不二里の顔のすぐ前に飛ばしてきた。

マグネット?まさか…

不二里が考える暇もなく、竜星はべっとりと黒いスラ子の成れの果てを投げつけてきた。どろどろした意志を持たないスライムは、マグネット、つまり不二里の顔を中心にして丸く集まった。
「むががっ!!」
真っ黒なスライムで鼻と口を塞がれ、呼吸と言語を奪われた不二里は、スライムを引き剥がそうともがいたが、マグネットは竜星の魔力で磁力が凶悪なレベルにまで高められているのか、不二里の腕力ではびくともしなかった。酸素が明らかに足りなくなり、ぼうっとする頭を何とか働かせて杖を召喚し、マグネットの磁力を弱めようとしたが、そうした物体を操作する能力は金属属性の魔導士の方が優れている。万事休す。
むがもごと何やら意味不明瞭な言葉を口走りながら膝をついた不二里に、竜星はよろめきながら近寄った。
「砂鉄を混ぜることで磁石を飲みこむようになるスライムの話は、魔導士だって一度は聞いたことあるだろ。これはそいつの応用版。外して欲しかったら解毒剤よこしな」
不二里は一度は竜星に対して中指を立ててみせ、何とか自力で取り外してやろうと不毛な努力を繰り返していたが、どうやらその悪いジェスチャーが竜星の怒りと嗜虐心を煽ってしまったらしく、マグネットとスライムはますます強固に、頑固に結びついた。不二里はついに観念して、弱々しい動きで嫌がるスラ子を何とかフラスコの口から引きずり出し、薄緑色の丸薬のようなものを彼女の口から取り出して竜星に向かって投げた。たちまち毒の効果が消え、痛みも癒えた竜星は、スライムを不二里から外して元のツヤツヤしたピンクに戻してやる代わりに、不二里を鎖で拘束した。

「一級魔導士試験、終了でーす!!」
司会の魔女の高らかな声が響く。太陽は傾き掛け、西からの濃い光が天魔連の街全てをオレンジ色に染めていた。
一級魔導士試験は、ほとんど竜星の一人勝ちという特殊な状況に審査員の先生方が悩みに悩んだ挙句、一級魔導士は全員とりあえず継続、竜星は来年から査定無し、二級から昇級するために受けた受験生たちは合格者無し、ただし樋口、諸星、不二里については来年も受験するなら筆記試験と実技一次試験を免除、という結果となった。樋口、諸星、不二里の三人が竜星に対する憎しみを深くするほど不満に感じたのは言うまでもない。

竜星はこの十分すぎる良い結果に喜ぶ様子を全く見せず、かといっても不満でもなく、淡々とした無表情で達磨荘に向かう。予定通りなら、鈴音はもうその入口で荷物を持って待っているはずだ。
しかし、鈴音は待ち合わせした場所には居なかった。
どこで油を売ってるんだ。
竜星は舌打ちして周りを見回す。達磨荘前の大きな通りには、天魔連養成学校の黒い制服を着た学生がちらほらと見られるだけで、翅黒高校の鮮やかなセーラー服を着た少女はどこにもいなかった。
まさか、変な奴に捕まって帰ってこないとか。
竜星は鈴音と連絡を取ろうと携帯を取り出した。
その時。
「尋ね人は彼女か?」
しわがれた声がして、竜星は振り返った。
そこには、傲然と微笑む白い衣の老魔女が、不安げな表情の比丘尼と、何が何だかわからないといった表情の鈴音を左右に伴い、ゆらりと立っていた。
「玉蓮院総統…」
鈴音は竜星の元にとことこと駆け寄り、竜星の後ろに立った。竜星は何か問いた気に玉蓮院をじっと見つめる。要するに何でアンタらがうちの鈴音と一緒にいるんだ、と言いたいのである。
玉蓮院は竜星の言いたいことを察知し、笑みを大きくする。
「喜べ神崎竜星、お前の弟子は見事に五級魔導士の資格を勝ち取ったぞ」
「…筆記試験には落ちてたのに?」
怪訝そうな竜星に対して、玉蓮院は比丘尼を見下ろし、視線だけで竜星に説明するように指示した。比丘尼は仕方なさそうに話しだした。
「あれから鈴音は魔力量測定試験を受けてな。ちょっとしたトラブルを鈴音自身も気づかないうちに解決してしまったのが青妃さまのお目に止まったのだよ。」
「とても見事な腕前だった。そのまま一級を与えてやってもいいくらいの潜在能力があると私は考える」
「へぇ」
竜星は鈴音について自信満々に語る玉蓮院の言葉を、全く信用してない調子で生返事した。竜星が何を考えているか、玉蓮院はすぐさま見抜いた。
「鈴音がこの秘められた魔力を意志通りに使えないのは、お前が能力を引き出すことができなかったせいであろう。だが心配ない、これからは私がみっちり指導して最強の魔女に仕立て上げて見せようぞ」
「は?」
玉蓮院の言葉に、竜星、鈴音、比丘尼の三人が一斉に同じ反応を示した。
「言わなかったか?鈴音を育てることはこの天魔連をさらに強大にするのにとても貢献することだ。お前の元にいたのでは、まさに宝の持ち腐れだ。」
「ちょっと待ってください!」
そこで玉蓮院に異議を申し立てたのは、比丘尼であった。
「何も知らなかった鈴音に数々の魔法を教え、魔導士が出来なくてはならないいくつかの技術をたった四ヶ月でここまで教え込んだのは、他でもない、この竜星なんですよ!自分も任務で忙しいのに!!竜星は充分鈴音を指導する力があります!どうしてもというなら、鈴音の今後の指導はこの私が…」
「黙れ」
玉蓮院が一喝した。
「八百比丘尼よ、私にお前が何を考えているかわからないとでも思っているのか。そうはさせぬ。お前たちに拒否権はない。」
鈴音と竜星は女性二人の激しいやりとりを為すすべもなくただ見ていた。
「お前俺の弟子辞めんの?」
竜星が小声で聞いてきた。
「なによ、寂しい?」
鈴音は軽口で返す。
「別に…ただ琴音先生は俺に頼んできたわけだから、どうしたもんかなーと思っただけさ」
竜星の言葉を聞いた途端、玉蓮院は話すのをやめた。
「今…琴音と言ったか」
「はい」
竜星はそれがどうした?と言わんばかりの調子で返した。玉蓮院はしばらく考え込んだ。長い沈黙の果てに、ちっと小さく舌打ちした。
「良いだろう。神崎竜星、お前はそのまま鈴音の指導をするがいい。ただし月に一度、私の前で魔法がどれだけ上達したか、確認させてもらうことにする。もし一回でも期待外れな結果であったら…」
玉蓮院はじろりと、普通の魔導士であれば震え上がってしまうほど冷酷な瞳で竜星を睨めつけた。
「私が教えることを考え直すかもしれぬ。」
玉蓮院はそう言い捨てると、白い長い衣服の裾を翻して消えてしまった。比丘尼は安堵してその場に座り込んでしまった。竜星は面倒臭え、という表情を隠しもしないで佇んでいた。鈴音は、ついに最後まで何が起こっているのか理解することができなかった。

「竜星、試験受ける前にした約束、覚えてる?」
帰る途中、一緒に天魔連学生街を歩きながら鈴音が竜星に訊いた。
「あー。何でも一つ言うこと聞いてやるってやつだろ?」
竜星があからさまに面倒臭そうに返した。
「良いだろう、何が望みだ?三浦亭のいちごパフェか?UKAMI辺りで何か欲しいアクセサリーでもあんのか?」
「いちごパフェなんか売りだしたの?知らなかった、良いなあ!!…でも、それじゃなくて。」
鈴音は言葉を切った。それから、えいっ、と思い切ったように、竜星に言った。
「一つ聞きたいことがあるの。竜星は何で、一級魔導士なんかやってるの?」
竜星の表情が変わった。その時鈴音は竜星の後ろを歩いていたのでそれがわからなかったが、それでも竜星の纏う雰囲気がすっと強ばったのを感じ取った。竜星は聞き返した。
「何で、そんなことを知りたがる?」
竜星の口調がやや警戒したようなものだったため、鈴音は気が引けそうになったが、それでも負けずに答える。
「別にー…ただ、あんた基本ものぐさだし、トップ目指してガツガツってキャラじゃないように見えただけ。大層な志があるようにも見えないし」
鈴音はそこで竜星の反応を待った。竜星は何も言わなかった。長い沈黙が続き、鈴音が諦めようとしたその時、竜星が口を開いた。
「ある女(ひと)に会うため」
もう答えてくれないだろうと思った鈴音は驚いたが、黙っていた。竜星はポツポツと、続きを話しだした。
「何つーのか、昔世話になった女(ひと)がいたんだけど、ある時いきなり目の前から消えちまったんだ。」
「…」
「不思議なことに、あんなに一緒にいたのに、その人の顔も名前も覚えていないんだ。だからその人に逆にこっちを見つけてもらおうと思ってな。まあ、あの人も俺に会いたければの話だが…。お前の母親にもこの無駄に強い魔力を安全に保つためにも天魔連の魔導士になったらどうかって勧められたこともあって、一級魔導士になって多少名前が知れることは俺にとっては一石二鳥で都合がいいのさ」
竜星はそれだけいうと、再び口をつぐんでしまった。鈴音は竜星の話を聞きながら、さらに疑問が溢れてくるのを止めることができなかった。
「そういえば、何で竜星は魔力が強いの。確かに今まで見てきた中であんたが一番強いみたいに見えるけど、無駄に強いって、何か理由でもあるの?」
竜星は立ち止まって鈴音を振り返った。夕日が沈む方向に向かって歩いているため、逆光のせいで竜星の表情はうかがい知ることができなかった。竜星は鈴音の質問に対してただ一言だけ発した。
「一つ、って言ったろ。」
鈴音はこれで、竜星が「もう質問するな」と言ったのだと理解し、これ以上何か言うのをやめることにした。ただ、なんとなく、普通に魔力が強い体質に生まれついて、というわけではないのかな、と勘ぐった。
それと、竜星の言う「あの人」は、誰の事なんだろう。
お母さんは天魔連とどういう関わりがあったんだろう。

私には、こいつやお母さんについて知らないことが一杯ある。

第一部完

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Posted at 22:20 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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