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2012.04.30

マジラバ第五話 潜入!百合の園 後編⑤

※未完成

2010/01/24:前編
2010/03/05:中編
2010/04/03:後編①
2012/04/29:後編②
2012/04/29:後編③
2012/04/29:後編④

昔から、夢を追う事しか出来なかった。妻と娘を愛していなかったわけではない、ただ自分のくだらない夢の優先順位が高かっただけ。しかし、ある時天罰が落ちた。次第に夢見ることの馬鹿さ加減に薄々気づき始めた矢先のこと。妻が不治の病に罹った。魔法と科学の融合した、最先端の医療でも治せないと言う。神に祈った、仏に祈った、財産を犠牲にした。それでも妻は見る間に悪くなっていく。やがて男は気付く、この世界に神などいないのだと。ならば自分が神になればいい。男は妻が死ぬ直前辺りから、『神』を騙るようになる。

「クリームシチューだけじゃない、いちごアイスも作って貰おうな。今度はお皿洗い手伝ってあげるんだぞ。ご飯を食べたら、パオパオランドで一日中遊ぼう。お母さんったらとっても可愛い顔してるのにジェットコースターが大好きで…」
「お父さん、お母さんは亡くなったのよ…」
「亡くなってしまったね。でもそれが何だと言うんだい?お母さんは甦らせることが出来るんだ、女の子たちの身体を媒体にしてね!容姿は変わってしまうけど、甦った時お母さんが嫌じゃないようになるべく綺麗な子を選んでるよ。お母さんみたいにオーラが強くて純粋な子を探してるんだけど、これがなかなかうまくいかなくて…でも、今日とっても良い子が見つかったんだ。多分これでお母さんは元に戻る。そうしたら、また三人で暮らそうよ。」
父親は美しい夢を語る。そこに悪気なんてないのだ。いや、自分は多分、薄々この目的に気付いていた。
麗子は殆ど泣きそうになりながら、父親の話を聞いていた。

お母さんが死んで、一番悲しんでいたのはお父さんだった。傍に居なくちゃいけないのに、私は祖父母に言われるままにお父さんを独りにした。だから、お父さんを責められない。それに、本当のことを言えば私もお母さんに逢いたかった。お父さんは、私みたいにお母さんにもう一度逢いたかっただけじゃないか…

「目的が判明したな。今のを自供と取る。」
麗子の思考を遮るように、竜星は朝川に杖を向けて、冷酷に言い放つ。
いつのまにか、竜星はミレニアム女学院のジャンパースカート姿ではなく、いつもの翅黒高校の制服に戻っていた。髪の長さも短くなっている。
朝川は不思議そうな顔をして竜星を見た。本当に、今まで彼らの存在に気付いていなかったようだ。
「麗子、彼は…?」
答えたのは麗子ではなく、竜星本人だった。
「天照魔導士連合一級魔導士、神崎竜星だ。あんたに、殺人とか誘拐とかその他諸々の容疑がかかってる。」
朝川の戸惑ったような表情が、がらりと怒りと怖れに変化する。
「天魔連…!!」
朝川は憎しみをこめて呟くが早いか、右手に杖を出現させて竜星に向ける。
「邪魔をするな!もう少しでうまくいくんだ。百合が甦ったら、三人で暮らすんだ!今度はちゃんと良い夫、良い父親として!」
朝川が杖を振る。がしゃああんと、竜星のちょうど頭上に下がっている、今は灯りを点していない豪奢なシャンデリアが粉々になって落ちてきた。竜星は避けながら杖を振り、砕け散ったシャンデリアを集めて鋭い刃を作った。柄の無い鎌が朝川めがけて回転しながら飛んでいく。鎌は朝川の耳すれすれを通って、壁に突き刺さった。院長は慌ててその場から逃げだした。

「やめて!」
麗子が叫ぶ。竜星は「言わんこっちゃない」と言いたげな、それでいてどこか悲しげな目で麗子を見る。しかし、麗子は竜星だけに言ったのではなかった。竜星が攻撃を止めた一瞬を見逃さず、麗子は父親の方を向き、早口に話しだす。
「お父さん、こんなこともうやめて!おばあちゃんたちは私が説得するから、二人で暮らそうよ!二人で遠くに逃げよう!もうどこにもいかないよ!!だから女の子たちを殺すのはもうやめて!!」
「いや逃げられちゃ困るんだが」
竜星が口を挟む。鈴音が肘で竜星の腹を突いて黙らせる。
竜星が静かになると、鈴音からも朝川に訴えた。
「朝川さんが奥さんを甦らせる媒体に良いっておっしゃった女の子、麗子さんの友達なんです!朝川さんが女の子を殺していくことで、麗子さんも傷つけることになるんです!」
「…それは本当なのかい、麗子?」
朝川は麗子に聞く。麗子は短く頷き、また口を開く。
「でもそれだけじゃないの、お母さんが居なくなって私も辛いけど、お父さんがやってることはやっちゃいけないことなの!だって死んだ人が甦る筈が無いもの!だからお父さんはただの人殺しになっちゃうの!!」
朝川は額に手を当てる。
「そうか~、しまったなぁ…とっても美しいオーラ出してたんだけど、お前の友達なんじゃしょうがないかぁ…友達を失ってしまうのはそりゃ嫌だよな。わかった、お父さん別の子を探すよ。」
至極あっけらかんと言う。話を理解していない。麗子はそれでも辛抱強く説得する。
「別の子なんて探さなくて良いよ!それにあの水槽の中の子たちも解放してよ!お父さんも、本当はもうわかっているんでしょ?こんなにたくさんの女の子を犠牲にしたって駄目なんだもん、お母さんを生き返らせることは出来ないんだって!!ね、だから二人でやりなおそうよ!」
麗子は涙を流していた。高慢ちきで気の強い彼女が、子供のように泣きじゃくっていた。朝川は娘が泣くのを静かに見つめていたが、やがて首を横に振る。
「だめだ。二人だけじゃ、だめなんだ。」
麗子の顔に絶望がゆっくりと広がる。
「お父さんとお母さんと、麗子がいて家族なんだ。麗子のことは大好きだけど、それと同じくらいお母さんのことも大好きなんだ。お母さんがいない家族なんて、考えられないよ。それにね、甦らせるの無理なんかじゃないんだよ。十代の女の子は世界にいくらでもいるんだから、一人くらいはお母さんの魂を全部受け入れられる子はいるはずだろう?」
朝川はずっと変わらず、希望に満ちた笑顔を湛えていた。
「ほう、じゃああんたは、世界中に居る十代の女全員を殺すまでこんなバカげたことを続けるってわけかい。」
鈴音が止める間もなく、竜星の創り出した鎖が朝川目掛けて飛んでいった。
「バカ、竜星…」
「小泉、もうキリが無い。お前でも説得できないようだから、悪いが強制的に取り押さえて連れて行く。」
「そんな…!」
麗子が泣いて抗議する。しかし竜星は朝川をまっすぐ見据えて杖を向けたまま麗子に言った。
「小泉、お前言ったよな。牢屋にぶち込んででも更生させるのが家族だって。それに残念だが、これだけ大規模に人に害をなしている人間を、天魔連として野放しにしておくわけにはいかない。娘の言葉すら届かないんであれば、力尽くで捕まえるしか手段はない。」
「やってみろ。」
朝川は竜星の作った鎖を魔力で粉々に粉砕し、杖を高く振り上げた。
「ご存じだろうか、私の魔力は人の精神を操作するものだ。人を魅了させることも絶望させることも可能。多少の時間をかければ、信者たちやミレニアム女学院の学生たちのように、性格を根本的に変えてしまう事も出来る…」
部屋の空気が一気に質量を増した気がした。
「いちばん簡単なのは行動意欲をそぎ取って、それから記憶を奪ってしまう事だね。」
竜星の動きが止まる。自分の周りの空気が重くなりすぎて、呼吸すらできないようだった。
朝川がにたりと嗤う。
「平和的に解決しようじゃないか。」
竜星の身体が、高圧電流でも掛けられたかのように大きく痙攣する。そしてそのままくず折れた。

「竜星っ?!」
鈴音が駆け寄る。ひざと手を床に着いた竜星の肩を掴んで強く揺さぶるが、竜星は木偶人形のように揺すられるままにされていた。目を半開きにした覇気の無い無表情で虚空を見つめている。
「…?バカな」
朝川は鈴音が正気を保ったままぴんぴんしているのに不審に思う。

この部屋に居る人間は、私と麗子以外すべて意欲が奪われてしまう筈なのに。

朝川はもう一度杖を振る。今度は鈴音の周りを重点的に狙う。空気が一段と重くなる。しかし、鈴音は何も感じないようだ。元気に竜星の頬を叩いて、覚醒を促そうとしている。
「…どういうことなんだ?私はこの魔力を使うようになってから、万人を意のままに操ってきた。特に君のような心の不安定な若い娘であれば、簡単に魔法に掛けられてしまう筈なのに。」
朝川は鈴音と竜星の元にゆっくりと歩み寄る。
「こ、来ないで!!」
鈴音は右手に頼りないほど細くて小さな「修行用杖」を呼び出し、朝川に向ける。竜星を守るように庇いながら朝川を睨みつける様子は一見頼もしいが、小枝のような杖とその先から二、三粒星が散るだけの魔力反応が、彼女に出来ることのすべてを物語っていた。

ああそうか、何らかの理由で自分の精神操作が効かないだけで、彼女自身は何もできないのか。ならば恐れる必要はない。

「お父さん、やめて」
父親が何をしようとしているのか悟ったらしい麗子が、すがりついて震える声で哀願する。だがそれを聞き入れるわけにはいかない。これも全て、麗子自身と自分と、妻の百合の幸せのためだ。
朝川は杖先を鈴音の額に押し付ける。鈴音は動かないのか動けないのか、竜星の盾となるような体制のまま固まっている。なんて無駄な事を。

「さよなら…メイドのお嬢さん…」

どがん!
突然、朝川の後ろで何かが何かとぶつかる音がした。振り向いて見ると、壁に白銀に輝く、柄の無い小ぶりの鎌がざっくりと刺さっていた。そして左頬が妙な熱さを持っている事に気づく。触ってみると、ぬるりとした粘っこい感触がして、真っ赤な血が手のひら一面に着いてきた。

朝川が前を見ると、鈴音に庇われていた筈の竜星が、杖を両手で握ってまっすぐ朝川に向けていた。ただし、思うままに身体が動かないらしく、床に腰を落としたままだ。表情もともすればぼーっと意識が飛んでしまうのを、必死にこらえているという様子だった。
「目の前で彼女が殺されかけたので焦ったのか」
しかし、何と言う精神力。この術を破りかけるとは、最年少一級魔導士の名も伊達じゃない…
「だが残念だな、魔力が尽きない限り私は何度でもこの術を使えるのだよ。」
朝川は再び竜星に杖を向けると、魔力を放った。空気が濃密になり、竜星を取り巻く。竜星の表情からまた意志の光が消えた。
…が、竜星は朝川の思い通りにはならなかった。竜星の右手に白銀の細い錐状の刃が現れた。竜星は虚ろな無表情ながらも朝川から視線を逸らさなかった。そして刃を、迷わず右腿の上に振り下ろす。
「…っ」
竜星は微かに呻く。刃先が刺さっている部分のスラックスの生地に、赤いものがじわりと滲む。竜星が刃を引き抜くと、赤い染みは見る見るうちに広がって、竜星の腿のかなり広い範囲を染めた。苦痛も相当な筈だが、竜星は構わずに立ち上がる。既にその琥珀の目には、強い意志の光が戻っていた。
「…って~…でも、これでもう効かねえぞ」
竜星はにやりと嗤う。
「…!!」
朝川は杖を竜星に向かって振る。今度は攻撃するために。しかし、彼は精神操作以外の魔法については、大した威力を持たなかった。精々仏像やらシャンデリアやら、部屋に溢れる物品の数々を竜星に向かって飛ばすことくらいしか出来なかった。
「キャーッ!」
鈴音は頭を抱えて床に伏せていたが、竜星はほとんど動かずにそれらを避けたり、粉砕したりしていた。大体部屋の中の物が綺麗に片付き、朝川が投げつけるべきものが無くなった時、竜星は杖を一回だけ振った。
空気中の塵や、床に転がった仏像の破片が集まり、変化して幾つもの刃の形を作る。それらはまるで燕のように朝川めがけてまっすぐ飛んでいく。

「!!」

次の瞬間、朝川、竜星、鈴音の全員が酷く驚いていた。
麗子が朝川の前に立ちはだかり、竜星の放った刃を全て受けたのだ。麗子の頬に肩に腕に脚に、鎌は浅くない傷をつけながら後ろの壁へと刺さる。それからざぁっと音を立てて、元の塵芥へと戻った。
麗子はぐしゃりとひざを折って、床に横たわる。赤い血が少しずつだが広がっていく。
「麗子!」
朝川は麗子を抱きしめる。
「ああ麗子、かわいそうに…死んでしまってもすぐに生き返らせてあげるからな」

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Posted at 01:42 | マダム沌夕 | COM(1) | TB(0) |
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