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2012.03.11

マジラバ第10話 恋の鞘当て!あの娘のハートと一級魔導士を奪え!中編④

前回の中編③は2011年5月3日

前回までのあらすじ:一級魔導士査定に来た竜星について、ダメ元で五級魔導士試験を受けた鈴音。案の定筆記試験で落ちたが、何の因果か天魔連のトップに見初められ、魔力量・性質測定を受けさせられることになった。一方竜星は実技一次『肝だめし』を余裕で合格。二次(最終)試験へと進むことが決定したが、彼を陥れたい人間は数知れず…

翻る白衣にでかいフラスコ。不二里製薬・食品の次期社長、不二里ナツメはダイダロスの迷宮の中で、妖魔と遭遇した。美しい女の姿。大理石でできた彫刻のように、白くなよやかな上半身。しかし、その肩からは赤銅色の羽根に覆われた翼が伸び出ている。下半身も、翼と同じ赤銅色の羽がびっしり覆っていて、つま先は鋭い鉤爪がついた、黄色く先が三つに分かれた鳥の足だった。

セイレーンだ。

「魔法使いの男の子…ってことは、今日は天魔連階級付き魔導士試験の日かしら?」
セイレーンは優雅に訊いた。
「それを知ってどうする。」
不二里は警戒心丸出しで、セイレーンに聞き返す。セイレーンはにやりと嗤う。
「どうもしないわ。恨みを込めて鼓膜を潰して、四肢を千切り落として、頭蓋骨外して脳髄吸い出して跡形もなく私の血肉にしてあげるだけ。ああ、血染めの服の切れ端だけは地上に返してあげる。」
「それを『どうにかする』っていうんじゃ…」
不二里はなんとも身の毛のよだつようなセイレーンの計画にちょっとだけおののきながらも、魔力で手も触れずにフラスコの栓を抜いた。中から、ピンクの靄が、ふわあ~っと出てくる。それは次第に濃厚に固まり、立体的な姿を形作った。
「その靄が私に何ができるというの?」
セイレーンは未だ余裕な面持ちで唇に笑みを浮かべる。
不二里は何も答えずに、低い声でつぶやいた。
「まずは、喉を狙え。」

 鈴音は比丘尼、青妃の後について天魔連校舎の長い廊下を歩いていた。腕時計を見ると、12時10分。お昼休憩の時間だ。
もう一級魔導士の実技一次試験は終わったんだろうな。あいつは無事に戻れただろうか。戻れたと思うけど。あと、お腹減った。達磨荘から少し離れたとこにある、喫茶カゼッタのペスカトーレとティラミスがかなり気になっているんだけどなあ…

そんなことを考えながら歩いていると、比丘尼と青妃がある教室の前で不意に止まったので、うっかり二人の背中にぶつかりそうになった。
「この教室で、魔力量や魔力の質、属性を測定する」
比丘尼が感情のない声で言った。その部屋には、先ほどの筆記試験をパスしたと思われる少年少女たちが列をなして順番を待っていた。鈴音が教室を覗き込むと、教室の一番前に、燃え盛る焔と剣が彫刻された、一本足の華奢な金の台座が置いてあり、その少し上に大玉スイカくらいの大きさの、象牙色をした水晶玉が、おそるべきバランスで嵌め込まれていた。水晶玉の中には銀のリボンで作られたような六芒星が刻み込まれていた。受験生たちは、その水晶玉に向かって次々と杖を振り、魔力をぶつけているのだった。水晶玉の傍らには保健室の先生のような白衣の女性がいて、受験生の魔力を手に持ったバインダーに挟んだ紙に記録していた。
「お前、杖は持っているな?」
玉蓮院が鈴音に訊いた。鈴音は杖を腰に下げたミルクティー色の革製のホルダーから取り出してみせた。
「持ち歩かなくとも、どこかに保管しておいて必要に応じて召喚すればいいのに。」
律儀なのだな、と玉蓮院は笑う。鈴音はええ、まぁ…と愛想笑いするしかなかった。
「さあ、列に並んで。我々は入口で待っていよう。見ての通り、杖を振って魔力をぶつければいいだけだ。肩の力を抜いて臨め。」
鈴音は言われたとおり、自分より幼く背も低い受験生たちの一番後ろに並んだ。
「青妃さまよ」
「ホントだ、普段校舎には来られないのに…」
「さっきのお姉さんもいるよ」
「青妃さまと一緒に来たなんて、よっぽど凄い魔力の持ち主なのかな」
少年少女たちは先ほどの筆記試験の時と変わらず、あからさまに鈴音の方を興味深げにチラチラ見ては何事かをささやきあっている。少し違うのは、玉蓮院に伴われて来たことで、何かしら期待らしきものが投げかけられる視線に込められるようになったことか。どっちもありがたくない、と鈴音は密かにため息をついた。
受験生たちのヒソヒソ話や視線に気づかないふりをするために、鈴音は魔力測定の様子に意識を集中することにした。ちょうど、二本に垂らしたおさげ髪と、赤い玉がついたヘヤゴムが可愛らしい少女が、元気いっぱい杖を振り下ろしたところだった。杖先から赤い炎のようなものが勢いよく飛び出し、水晶玉を一瞬だけ包み込んだ。鈴音は世間をそれなりに騒がせている男女ペアの泥棒のことを思い出した。炎が跡形もなく消えたあと、水晶玉の中の六芒星の、角の一つがぼうっと赤く、血が滲むように染まった。
「属性は火、質は創造、魔力量106、合格」
白衣の女医が淡々と読み上げながら紙にペンを走らせた。少女は声を上げて喜びながら出口から教室を出ていった。
しばらく眺めている内に、鈴音は色々なことに気がついた。どうやら魔力量の合格ラインが100あたりであること、受験生の持つ魔力の属性は「火」「水」など一つだけとは限らないこと、そのような場合は赤や青など複数の色が水晶玉の六芒星ににじみとなって現れてくることなど。質にも色々あるようで、一番多いのが「創造」と「変性」、一人だけ「移動」が居た。数値や質は水晶玉のどこで測るのかわからなかったが、きっと身体測定の時のように白衣のお姉さんにしか見えないところに測る部分があるのだろう、と鈴音は想像した。
しかし、全体としては少数派だったが、魔力数値が規定に満たず、不合格を言い渡された子たちは可愛そうだ。
鈴音は思う。
そして、多分それが今から数分もしないうちに自分がたどる運命なのだろうと思うとますます彼らに同情せざるを得なかった。
そうこうしているうちに、鈴音の番が来た。
「えーと、あなたは…」
女医がリストと思われる書類を探し始めた。しかし、入口のところで目配せをしている玉蓮院に気がつくと、書類を置いて鈴音に指示した。
「さあ、杖を振って思い切りこの水晶玉に魔力をぶつけて」
女医の表情が少し硬くなったのは気のせいだろうか。
鈴音はホルダーから再び杖を取り出し、目を閉じて念を込めながら大きく振りかぶった。
それから、怖々と目を開けて水晶玉を見る。

…何も起こらない。

水晶玉は何色にも染まらず、鈴音が杖を振る前と何の変化も表さなかった。
辺りが一瞬にして沈黙に包まれた。それから、くすくすというまばらな失笑が子供たちの間から聞こえてきた。
女医さんが困惑しているのがわかる。「エレクトリカーでも10くらいは示すのに…」とか何とかつぶやいているのが聞こえた。杖からいつものようにぱちぱちと、燃え尽きる直前の線香花火のような情けない火花が数個散ったのが、今までの受験生たちの派手な魔法と比較してしまい、却って何も出てこなかったよりも惨めな結果に思えた。
鈴音は気まずそうに相変わらず入口にふらりと立っている玉蓮院と比丘尼の方を見た。比丘尼は安堵を隠しきれない様子だったが、玉蓮院は無表情でありながらも顔色がコピー用紙のごとく真白になったことで怒りや動揺を表していた。

そんながっかりされても、ねえ。

鈴音は若干肩をすくめるようにして、その場を離れ玉蓮院と比丘尼の方に歩いて行った。
「そんなはずは…水晶玉の故障では…?」
「いや、それこそ『そんなはずは』ですよ」

戻ってきた鈴音にお構いなく、二人は言い合っている。たとえこの口論が発展して取っ組み合いの喧嘩になろうとも、鈴音にはどうにもできないことなので、鈴音は所在無げに壁に貼られた「豊橋天○vs○ャ○リーキャノンズ戦チケット販売中」のポスターにもたれかかるようにして目を閉じていた。

終わったら今度こそペスカトーレを食べに行こう。

微かに鳴り出した腹時計のハトの声に、空腹を思い出していたその時のこと。壁の天井近くに張り付いている蓄音機のラッパの部分のような形をしたものから、緊張感を持った張りのある女性の声で、放送が流れてきた。

『緊急放送、緊急放送。二級魔導士実技試験会場からケルベロスが脱走した模様!試験中ではない階級魔道士は直ちに捜索を開始し、来客の安全を確保せよ!繰り返す…』

ケルベロスって、あのケルベロス?

鈴音が遠い昔に読んだ本の挿絵に描かれていた頭の三つある怪物犬の姿を思い出そうとしているその傍で、五級の受験生たちの間にざわめきが広がった。普段の態度はでかいものの、勿論年端も行かぬ彼らにケルベロスを退治する力などない。
玉蓮院は比丘尼と口論をするのをやめた。駆け寄ってきた測定係の女医に、指示を出す。
「受験生たちを集め、地下経路に非難するように」
女医は頷くと、その場に屯している子供達を実に手際よく一箇所に集め、教室から出て行った。
「よくあることだ、特に今日のように混雑している日には。問題はただの脱走か、誰かけしかけた人間がいるのか」
玉蓮院は両眼をカッと見開いた。結った髪の後れ毛がユラリと逆立ち、何かに集中しているように瞬き一つせず一点を見つめていたが、十数秒ほど経った頃に緊張を解いて窓の外を見た。
「ほう、筆記試験に落ちたので自暴自棄になったか。行け比丘尼、薬品科実験棟の屋上にけしかけた者がいる」
比丘尼は手にかけた数珠を一回振って稲妻のような光とともに巨大化させ、窓に足をかけたと思ったらそこから空に飛び立っていった。
「次は脱走した獣だな」
青妃は再び両眼をカッと見開いた。次はケルベロスの居場所を探し出そうというのだろう。しかし、ケルベロスはこちらが見つけ出すより早くこの場に来てくれた。鈴音が窓の外が暗くなったと思った瞬間、がしゃあああん、とものすごく大きな音がして、窓ガラスの破片が四方八方に飛び散った。あまりの衝撃に、目を閉じて耳を塞いだ鈴音が再びその目を開けたとき、探していた三つの頭を持ち、蛇の尻尾を持つおどろおどろしい巨大な怪物犬、ケルベロスが数メートルと離れていない床の上に悠然と立っていた。

玉蓮院はすぐに体勢を整えた。金でできていると思われる豪奢な長い杖をその右手に召喚し、尖った歯を余すところなく全部剥きだして脅すように低く唸るケルベロスに杖先を向けた。
鈴音は会って間もない玉蓮院のことが既に好きではなかったが、それでもこんな化物を目の前にして全く怯まない勇敢さには感服せずにはいられなかった。
玉蓮院は杖先から眩しい青白い稲妻を丸めて出来たような球を作り出していた。球は、玉蓮院が念じれば念じるほど大きさを増していった。
「わーっ!!」
突然、ケルベロスの後ろ、すなわちケルベロスを挟んで鈴音と玉蓮院の反対側から、高い叫び声がした。トイレにでも行っていたのかもしれない、五級魔導士受験生の少年が一人、逃げ遅れてしまったのだ。
ケルベロスは叫び声に注意を奪われ、後ろを向いた。そして、叫んだ少年が玉蓮院よりも弱いとみるや、ターゲットをそちらに変えた。
「あ…あぁ…」
六つのギラギラした瞳に見据えられ、怯え切った少年は涙や鼻水を垂れながしながらへたへたとその場に尻をついた。ぐるぐると、重低音の唸り声がますます大きくなる。
ぐわぁっ、と大きな口を開けて、ケルベロスはついに少年の喉笛目掛けて飛びかかった。粘っこい涎の糸が数本、上下の歯列をつないでいる。
「今だ!」
玉蓮院は杖を振って、岩のような後ろ姿を目掛けて作り出した光の玉を放出した。眩しい光が雑然とした廊下を照らしながらケルベロスに向かっていく。

あれ、玉蓮院が何しようとしてるかわかんないけど、これあの子を巻き込んでしまうんじゃない?!

鈴音は突然閃いてしまった。

この怪物を倒せるであろう光が、少年にも当たって無事ですむはずがない。ということは!!

鈴音は一旦教室に駆け込み、反対側の出口から再び廊下に出た。

間に合いますように。

鈴音は牙を剥くケルベロス、そしてその後ろから迫り来る光の玉を前に為すすべもない少年を抱きかかえ、少年の頭を守るように身を伏せた。

カッ!!

今までとは比較にならないくらい白い、強烈な光が廊下に溢れかえった。吹き飛ばされそうな風圧。ビリビリと肌に感じる衝撃。眩しくて目を開けられない。玉蓮院の攻撃がケルベロスに当たったのだろう。

鈴音はしばらく、少年と一緒に体を丸めるように縮こまっていた。徐々に光や風圧が治まってきて、目を開けられるようになってきた。
多分、この子も私も助かった。
鈴音は立ち上がり、少年の手を取って彼も立ち上がらせた。それからケルベロスの方を見て、本当に安全かどうか確認しようとした。
薄い靄が辺りに立ち込める中、ケルベロスは確かに気を失って仰向けに倒れていた。漫画のように白目を剥いている。しかし、その向こうに立っている、ケルベロスを仕留めた張本人のはずの玉蓮院が奇妙なことに、この結果が予想外だとでも言うようにあっけにとられたような表情をしているのが気になった。
ひとまず少年から離れて、玉蓮院に抗議の意志を込めて睨みつけながらその元へと向かうと、なんと玉蓮院はいきなり鈴音の肩を引っ掴んで乱暴に揺すぶってきたのだ。
「やはり!私の見立ては間違いではなかった!!」
目には常軌を逸したような喜びが現れて、輝いている。
「はぁ?」
鈴音は思いがけない展開に戸惑い、玉蓮院に文句の一つでも言ってやろうと思っていたことすら頭から飛んでしまった。
「意識せずにやったのか?!獣も!私の攻撃も!お前が封じてしまったのだぞ?!」
「いや、なんかの間違いでは…」
ちょうどそこに、目つきの悪い、ふてくされたような表情をした学生の、首根っこを掴んで比丘尼が戻ってきたところだった。比丘尼は一瞬で、今この場で何が起こったのか理解したようだった。ぱっと、比丘尼の顔が青ざめたからだ。
そんな比丘尼には目もくれず、玉蓮院は鈴音の肩を叩き、さも嬉しそうに言った。
「特別処置だ!お前に『条件付きで』五級魔導士の資格を与える!クチナシの件といい、本来ならその場で一級に取り立ててもいいくらいだが、意識して出来るわけではないということがどうしてもネックになるのでな。これから特に精進するが良い。」
「何をだ?!鈴音お前、何をやった?!」
今度は比丘尼が鈴音の肩を掴んで揺すぶってきた。これ以上されたら、いい加減脳震盪を起こすかもしれない。
「いや…なんか眩しくなって気がついたらケルベロスが倒れてたってゆーか…」
自分で把握している限りのことを比丘尼に説明しながら、鈴音は今起きたことに対して既視感を感じていた。

また…このパターンかよ…



一方、ダイダロスの迷宮の中。オレンジ色のランプがたまに揺らめく以外は灯りの無い暗い洞窟の中で、巨大なフラスコを背負った白衣の青年と、赤銅色の翼を持つ女の妖魔が対峙していた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
セイレーンは最強の武器となる声も掠れ、体中に血の滲む痣をいくつもこしらえていた。これは、ただの打撲等の外傷によるものではない。体内で起きたことに起因する、より禍々しく致命的になりうる傷だ。
「なんなの…あんた…それは、なんなの…」
苦痛と屈辱で涙をボロボロ流しながら、セイレーンはガラガラに掠れて消えそうな声で不二里に訊いた。不二里は予想以上のセイレーンの苦しみ様に辛そうな表情を見せるが、それでもここの怪物を一匹は仕留めて戻ることが一次試験合格の条件であったことを思い出し、懐から護身用のナイフを取り出した。そして、地面にひざまずいた。

不二里が再び立ち上がったとき、白衣がところどころ真紅に染まっていた。
ポケットから黄色い玉を取り出して、強く握る。玉が上下にパックリ開いて、つやつや下糸が伸び出てきた。
「待ってろよ神崎、鈴音ちゃんは俺のものだ」



ダイダロスの迷宮といい、ケルベロスといい、ギリシャ神話的アイテムをただ使いたかっただけなのが丸分かり…



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Posted at 22:28 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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