--.--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2012.02.06

マジラバ第9話:お風呂?ご飯?それとも…温泉宿の戦い!後編

「鈴音はまだ生きてる!」
それに、シールド内は魔法が使えるのか!竜星は突破口を見つけた、と思った。今のは鈴音が自分の作った刃を見つけて、引き寄せようとしたのだと思う。しかしやはり、湯に金属の刃は効果がなかったようだ。ならば!
竜星は杖横様に振ろうとした。その時、
「女湯の戸が開かないなら男湯だ!!」
と叫びながら浴衣を着た、金髪に赤いバンダナの男が飛び込んできた。右京は鎖で縛られた河童と壁で杖を構えている竜星を見て一度フリーズしかけたが、竜星が息つく間もなく鎖を作り出して放ってきた。右京はあっと思う間もなく捕まり、竜星の元に引き寄せられた。
「丁度良かった火炎放射器、女湯に向かって飛びきり熱いのをぶっ放せ」
「誰が火炎放射器だっ!!」
出会い頭に捕まってしまった上にこんなゾンザイなあだ名で呼ばれて、憤慨する右京だったが、竜星に何か策があるのだろうことを悟り、呉葉と鈴音を助け出すべく、自分の出来る限りの魔力を杖に込めて突き出すように振った。ゴォッ、と身の毛がよだつ音がして、右京の杖から真っ赤な焔が渦を巻いて飛び出した。しかし、右京渾身の焔は呆気なくシールドに阻まれ、円状に流れてやがて黒い煙ときな臭い臭いだけを残して消えた。
「何にもならないじゃねえかよ!」
期待を裏切られて右京は竜星を責める。竜星も予想外だったようで、焦りと恐れの混じったような表情をした。まさか、この数瞬のうちに鈴音に何かあったのでは。それでも竜星は右京に言う、
「もう一度、杖を振れ。」

鈴音さん!
呉葉は隣で鈴音が糸の切れたマリオネットのようにくずおれて水に沈むのを見て、さっと青ざめた。こうなってから二分は経つ。元より常人より丈夫で、ある程度の修羅場もピンチも経験している吸血鬼ならいざ知らず、鈴音さんは肉体的にはか弱い人間だ。限界が来てもおかしくはない。噛みついてもみたが、結果は剣で斬りつけるのと全く同じであった。水の壁が厚すぎて、また水圧が強すぎて、吸血鬼の力でも切り開くことが出来ない。
…そして、例え吸血鬼でも、何分の間も呼吸が出来なければやがて死ぬ。これまでか。
呉葉が死を覚悟し、それでもなお鈴音だけはと、その身体を引きずりあげた時、呉葉の耳に大分聞き慣れた声がかすかに届いた。
…何か、ロクでもないことを言っている気がする。


「起きやがれこの首から腰までドラム缶女あっ!!!」
右京が再び焔を噴射している途中、竜星が聞いたこともないほどあらん限りの、肺中の空気を全部費やすような声を張り上げて、叫んだ言葉だ。すぐ隣にいる右京と河童はたまったものではない。音波が聴神経を伝わって脳みそを爆破させるかと思った。
ぐわんぐわんと揺れる視界に壁を支えにして浮いているのがやっとの右京に、竜星は容赦も遠慮もなく言い放つ。
「何やってんだもっと出せ!」
あまりの言い草に右京は怒鳴る。
「このクソガキ!!!」
二歳も年下のくせして!しかし、やはり口では到底竜星に勝てない右京なのであった。

呉葉は抱き抱えた鈴音の身体がぴくりと動いたのを感じた。そして、意識的か無意識かは不明だが、鈴音の右手が一度は落とした杖を拾い、ゆっくりと外に向かって伸びるのを見た。
次の瞬間、呉葉は濁り湯の向こうでもはっきりと赤い焔が、渦のように球のように迫ってくるのを知った。咄嗟に焔から庇うように、鈴音に覆い被さる呉葉。
「ぎああああーっ!!!」
耳をつんざく凄まじい悲鳴が辺りに響き、今まで何をやっても壊れなかった湯柱が溶けるように崩れた。何もなかったかのように白い湯は消え去り、現れたのはぬいぐるみのように可愛い小ダヌキ。カチカチ山のように背中を炎上させながら逃げ惑うタヌキだが、片付けそこねた石鹸の一つにつまづいて、
「ぎゃーっ!」
呆気ないほどつるんと転び、強かに尻餅をついた。
シールドが敗れ、竜星と右京が、河童を連れたまま女湯の床に揚々と降り立つ。竜星は呉葉から鈴音を受け取った。ぐったりしている鈴音の身体に後ろから腕を回し、両手を重ねて作った握りこぶしでみずおちを強く押す。
鈴音が咳き込みながら水を吐いた。それから、ゆっくりと目を開ける。
鈴音が振り向いて、竜星と視線が合う。竜星がほっとした表情を一瞬だけ見せる。しかし、それから互いにはっとした表情に変わる。
「キャーッ!」
運良く側にぐしゃ濡れになって床に張り付いていたタオルを見つけ、急いで身体に当てる鈴音。
「助けてくれてありがとうございますお師匠様くらい言え!!」
何とも失礼な鈴音に怒り心頭ながらも、鈴音からぱっと手を離し、視線を剃らす竜星。しかし普段青白い頬が心なしか赤みを帯びている。ちなみに竜星はちゃんとタオルを巻いている。不幸中の幸いなり。鈴音もタオルを巻いてしまうと決まり悪そうに謝った。
「ご、ごめんなんとなく反射的に」

「痛たた…、ちくしょう、こんなことで捕まるなんて!」
右京に首根っこを掴まれ、痛めた腰をさすりながらタヌキは恨めしそうな瞳で面々を睨んだ。
「すいませんタヌキの姐さん」
「すいませんじゃないよ、あんたがちゃんと一級魔導士捕まえてりゃうまくいってたのよ!!」
鎖に繋がれ、涙目で自分を見上げる河童に、タヌキは罵声を浴びせた。
「せっかく応援してくれた山のみんなに申し訳が立たないよ!!」
タヌキはボロボロと涙を流す。
血も涙も無く人を殺そうとした筈の小ダヌキの大粒の涙に、一同は呆気にとられてしまう。
なんかこっちが悪者みたいじゃないか。
右京なんかはタヌキの今までと打って変わって、あまりに哀れな様子にうっかり貰い泣きするところだった、しかし危うく大事な相棒が殺されそうになっていたことを思い出して、なんとかこらえた。
その時、女湯の引き戸が音もなくすっと開いた。
「女将さん…」
タヌキが呟いた通り、入ってきたのは灰緑の着物が粋な、旅館の美しい女将であった。女将はさっと女湯を見回し、タヌキを見つけると、悲しそうに呟いた。
「貴女だったの…」
誉めてくれるか庇ってくれるかと思っていた、自分にとっては予想外な女将の様子に、タヌキは急に決まりが悪くなり、俯いて赤面する。
「女将さん、知り合いですか?」
竜星が浴衣に腕を通しながら女将に聞く。女将はゆっくりと頷いた。
「ええ、もう何年になるかしら。まだ小さかったこの子がここで遊んでて、溺れそうになってたのを助けたことがあるんです。この子、『いつか絶対恩返しします』って言って山に帰っていきました。それ以来色んな人間に化けてお客様として来てくれて…木の葉のお金だったけど…私も楽しかったんです。だけどここ暫く、そうね、レジャーランドが出来る計画が出始めてから姿を見なくなって…」
まさかこの子が犯人だったなんて、と女将は重ねて呟いた。余程悲しいのだろう。あるいは裏切られたとすら感じているのかもしれない。
「女将さん、想像ですけど」
浴衣を着た鈴音が口を開いた。
「お世話になった女将さんの旅館が潰されて、レジャーランドにされてしまうのが嫌だったんじゃないでしょうか?それで、工事の人や測量の人がいなくなればと思ったんじゃないでしょうか。」
ね?と、今しがた自分が殺そうとした鈴音に、確かめられるように見られて、タヌキは余計な世話だと言わんばかりにそっぽを向く。
「そうなの?」
大好きな女将に優しく聞かれては仕方なく、タヌキは素直に小さく頷いた。それからぽつりぽつりと、しかしすぐに堰を切ったように語りだす。
「だって女将さん、寂しいって言ってたじゃん。旅館が無くなるの、寂しいって!私だけじゃなくて、化けられない他の山の仲間も、こっそり遊びに来てた。お金は払えないけど、一生女将さんと旅館を守ろうと思ってた。なのにレジャーランドなんかにされちゃうのに、女将さんはそれを許せるの?」
そこまで言い終えるとタヌキは、わーっと子供のように泣く。泣いて泣いて、右京の手が緩んだ隙を逃さずに、脱兎のごとく逃げて冬の山の枯野のどこかへ見えなくなった。後を追う者は居なかった。

「裏切ったのは、私の方だったんですね」
女将がぽつりと呟く。誰にともなしに口から零れ出てしまった言葉のようだった。
「妖魔は、人間や魔法使いより頭が固いですからね。一度好きになったら変わらないんです。変われないんです。一方的に死ぬまで貴女の物になる」
何故かそれに答えたのは、呉葉だった。女将はこの瞬間まで呉葉のことを知らなかったが、それでもいきなり独り言に割り込んできた吸血鬼の横顔を見詰めた。呉葉は続ける。
「これは本能だからしょうがないんです。だから、安易に助けちゃだめです。これから、それを覚えておいてくださいね。」
女将はしばらく硬い表情で呉葉を見つめていたが、やがて口元をふっと緩めると、哀しそうに笑った。
「それでも、助けたいときは助けちゃう。それが人間の、いわば本能なのよ。」

「比久尼さんには解決したけど逃げられた、多分二度と悪さしないだろうと伝えておきます」
和の美しさの粋を集めたような石造りの玄関で、竜星が女将に最後の報告する。
「ええ、お願いします」
小粋で美しい女将が微笑みで答える。
「で、女将さん、聞きたいことがあるんですが」
「何かしら?」
女将さんの微笑みがわざとらしい笑顔になった。
「橘右京と音無呉葉、どこに行きました?あんなアホでも一応、三百万円があの首に掛ってるんですが」
「…裏口から出てったわよv」
竜星はバッと壁側の飾り棚に杖を向け、刃をぶっぱなす。どかーん!棚が粉々に破砕され、中から右京が日傘を持った呉葉を伴って飛び出した。右京はそのまま青空高くへと舞い上がる。
「じゃーな神崎!鈴音さん!あと女将さん、賞金首ってわかってたのに使わせてくれてありがとうな!何か困ったことがあったらいつでも俺に言えよ!!」
じゃ、あでゅー。そんな気取ったフランス語での別れのみ残して、飛行速度はやたらと速い右京は一番星のごとく煌めいて消えた。
「『じゃーな』ってなんだ『じゃーな』って。」
竜星が呆れたように自問する。
「…もう仲間感覚なんじゃないかしら右京さんにとっては」
鈴音が自分の思う答えを出す。とたん、竜星が作者の貧困なボギャブラリーでは到底言い表せないような表情をした。
「あ、うん、物凄く嫌なんだってことは伝わった」

「ところで溺れてた時、とんでもなく失礼な事を言われてたような気がするんだけど」
「あー、思ってることで正解だと思うぞ」
「あのねえ!」
竜星と鈴音はこうして余命短い旅館を後にする。


スポンサーサイト
Posted at 02:02 | マダム沌夕 | COM(3) | TB(0) |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。