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2012.01.29

マジラバ第9話 お風呂?ご飯?それとも…温泉宿の戦い!前編

リクエスト:カノ先生
ありがとうございます!肌色多めのお話です。



「…工事現場で怪異が起こる?」
白い着物を纏い、白い髪をお下げにした、毎度お馴染み八百比久尼が酒を巨大な瓢箪から手酌しながら女将に聞き返す。渋い色だが上等な、灰緑の着物を品良く着こなした、年相応の美しさのある五十そこそこの女将は心底困り果てたようにため息をつく。
「ええ、ここのところ毎日。昨日なんか作業中の人が一人、大して深くもない温泉で溺れかけて、まだ意識が戻らないんですって…」
「そりゃ穏やかじゃないな。」
比久尼の相槌に、女将は更に続けた。
「皆さん気味悪がっちゃって。このままじゃ作業が進まないし、私が何かしてるんじゃないかって疑う人も出てきたのでね、比久尼さんをお呼びしましたの。」
比久尼は一口、盃に注いだ酒をがぶりと含み、答えた。
「他でもない女将の頼みだ。私が何とかしよう。厳密に言えば私の部下がだが。」
比久尼の言葉を聞いた女将の表情が緩み、ほっとしたのが傍目にもわかった。
「ありがとう比久尼さん。悪いわね。」
比久尼は右手をひらひら振って「大したことではない」と伝える。しかし比久尼はすぐに胸に引っ掛かるものを感じて女将を問い質す。
「女将は…辛くないの?旅館が無くなってしまうの…」
女将は少し沈黙した。それから、寂しそうに笑った。いや、そうするしかないのだ。
「時代の流れだから、仕方無いわよ。」

「…というわけで、今日の任務は温泉旅館で起こる怪異の調査だ。勿論行ってくれるな?」
古めかしく装飾された楕円形の鏡の向こうから、いつもの通り偉そうな比久尼が命令する。
「…このクソ寒い時期に温泉とか」
「降りしきる白雪を見ながら温泉に浸かり酒を飲むのも良いものだぞ。これだからお子ちゃまは」
「結局酒が飲めればなんでもいいんでしょ比久尼さんは」
レンガ屋敷のダイニングの中で比久尼とやり取りするのは、彼女の部下であり凄腕一級魔導士の神崎竜星であった。魔法の練習をしていたらしく、側には竜星の弟子の鈴音までいる。今日も今日とて可愛い鈴音は、呑気とも取れる陽気さで会話に加わる。
「温泉ですか?私実は行ったこと無いんですよ」
「だとさ、竜星。婚前旅行として連れていってやれよ」
「な、ちょ、婚前って」
「比久尼さんにも早く一緒に温泉入ってくれる人が見つかればいいですね」
ばっと頬を燃え立たせる鈴音に対して竜星は平然と笑っている。比久尼はあまりに非道い竜星の皮肉にかーっと頭に血が上り、
「余計な世話だこのクソマセガキゃあ」
と捨て台詞を残してフェードアウトした。

「お待ちしておりました神崎様」
いくら一級魔導士とは言え、見た目と実年齢はどうしても高校生である小僧と小娘にも、分け隔てなく腰の低い女将がしなやかに慎ましく、磨きあげられた床に指をつく。
「調査、宜しくお願いしますね」
優しい笑顔の女将に対しては流石の竜星もアルカイックスマイルで答える。
「ええ、お任せ下さい」
靴を脱いで女将の後に続き、部屋に案内される。古くて傷が多いながらも、その上を歩く人の姿がうっすら映るくらいに磨かれた床、毎日変えているのだろう、素朴な四角柱の花瓶に生けられた、赤くて厚い花びらが瑞々しい椿。どこもかしこも手入れが行き届いていた。
「こんなに綺麗なのに、潰されちゃうんだね」
鈴音が小さく呟く。竜星は女将には聞こえないように返す。
「時代の流れってヤツだよ。俺たち以外に客っていったら、玄関前ですれ違った中年夫婦くらいだろ。ひなびた温泉宿よりパーっと華やかな温泉リゾートとかのが、今の奴にはウケが良いのさ。」
冷たいがあまりに的を射すぎている竜星の言葉に、鈴音は押し黙るしかなかった。
女将が部屋の前に立ち止まる。
「こちらが桔梗の間でございます」
開いて貰った襖の向こうは、青々とした畳が張られ、艶のある背の低いテーブルが置かれ、廊下と同じ赤い椿が生けられた、こじんまりとしながらも和の魅力を最大に引き出した部屋であった。開け放たれた障子の向こうは、雪を被った山々が青空に映えて輝くようなコントラストを見せていた。
「素敵…」
鈴音は至極シンプルに、しかし感嘆が凝縮された言葉をつむぐ。一方竜星は何か不満げな顔をしていた。
「女将さん、もう一部屋予約しといた筈ですが。」
女将は怪訝そうな顔をした。
「あら?比久尼さんが昨日電話で、一部屋で良いって」
「…あの色ボケババア。」
深い仲じゃありませんの?と女将は二人を交互に見る。
結局、他に客も居ないってことで、隣の部屋をもう一つ借りることにした。

「温泉を中心に…」
「心当たりは…」
竜星と女将が一連の事件について話をしている。鈴音は側で話を聞きながらも窓の景色を見ていた。不意に、鈴音は視線を感じる。
「誰?」
鈴音はぱっと立ち上がり、窓に駆け寄る。しかし誰も居ない。竜星も話を中断して、窓を開けて外を見回す。
「逃げたな。」
竜星左手の中に杖を呼び出し、一文字にさっと振った。
「神崎様、今のは…」
「攻撃的な魔力を検知して発信源を引きずり出す術です。引っ掛からないってことは、魔導士じゃないかもしれない」
「魔法使いじゃないってことは」
「妖魔の類いか、普通の人間の仕業か」
鈴音は、竜星が自分が何かを目撃した、ということを信じてくれたのが少し嬉しかった。勿論口には出さないが…

「温泉によく現れるってことは、そこで張ってれば現れる可能性が高いってことだ。俺たちのことを見てたなら、絶対何か攻撃してくる筈だ。鈴音、お前は女湯の方で見張ってくれ。」
「そう言われたって私何も出来ないよ?」
「杖振ってドカーンと音立てるくらいは出来るだろ。」
「ま、まあ」
竜星に仕事を言い付けられ、鈴音は自身無さげにしていた。前回の赤羽塾のテロ事件以来、竜星は鈴音を相変わらずバカにしつつも多少なりとも頼りにしているようだった。私を見直してくれたのは嬉しいんだけど、あまり買い被られるのは困るのだ、失望されるのが怖いから。
竜星はそんな卑屈な鈴音の心情を知ってか知らずか、飄々と続ける。
「というわけで任せたぞ。」
鈴音は仕方なく、竜星と出会ってから何回ついたか分からないため息をつく。私の幸せは逃げまくっているのではないだろうか。
「わかったよ。ところで」
「何だ」
「何でばっちり浴衣着て桶を抱えてるのよ。ご丁寧にアヒルまで持っちゃってさあ。張りこみなら別に温泉使わなくたって」
「だって入らなきゃ損じゃん?俺も温泉初めてなんだよね~♪」
竜星は楽しそうに藍色の暖簾を捲ってその向こうに消えていった。
「思い切り公私混同してんじゃん!」

しかし、せっかくこんな素敵な温泉旅館に来て、しかも費用は天魔連が持ってくれて、温泉に入らないで帰るという手はない。鈴音も浴衣を持って、女湯の赤い暖簾を潜って脱衣場に入る。

「さて、怪現象の犯人は来るかな?」
竜星は乳白色のとろりとした湯に肩まで浸かりながらひとりごちる。濁った湯の下では、しっかり銀の杖を握りしめている。温かな湯気の中でも油断はしない。と、気持ちを引き締めた側から、ざわりと人の気配を感じた。竜星はさっと構える。
「温泉てのは良いねえ…」
乳白色の湯の中に、肩まで浸かって頭に手拭い乗せて、金髪の若い男がのほほんと言う。竜星は男が誰なのかを認識すると、にやりと不敵な笑みを唇に乗せ、構えた杖をバサーッと振る。銀の刃が数十本、湯を荒々しく切り裂きながら金髪の男に向かっていく。
「ギャーッ?!」
突然の攻撃に、男は驚きながらもまるであらかじめ襲われることを予測していたような敏捷な動きで杖を振る。
竜星の刃が赤くとろけて、ぼたぼたと湯の中に落ちる。
男はそこで、刃を作った魔導士の顔を見る。作り物めいているくらい整いすぎた顔。こいつは。

「な、な、なんでお前がここに…」
金髪の男は有り難くない出会いに後退りしながら質問するのがやっとのようだった。竜星は琥珀の瞳に獲物を狩る猛禽の光を宿して
「ここで会ったが三百万の賞金首!」

一方、女湯では。
「うぅ、寒い…」
季節は真冬、凍りつくような冷たい風が何も纏わない無防備な素肌を切りつけるように感じた。鈴音は体を洗うのもそこそこに乳白色の岩風呂に浸かる。
「あったかーい…」
脚の先から燃え立つように、湯の温もりが染み渡る。鈴音は勢いをつけて肩まで身体を沈める。小さな波が水面に立ち、温泉を囲む岩を濡らした。
鈴音は岩に腕を乗せ、その上に顎を置いてじっくりと柔らかい熱を味わう。疲れが取れる。都会で溜め込んだ良からぬものがどんどん皮膚から抜けていくようだ。
「…静かだな」
鈴音は誰ともなしに呟いた。その瞬間、どかーんと妙な音が男湯から響いてきて静寂をぶち壊した。
「静かだなって言ってんのに!」
全くもう。しかし、男湯が騒がしいと言うことは、竜星が犯人を見つけたんだろう。これで安心して観光だけに専念できる。鈴音は膝を抱えて空を見上げた。
しんしんと降り始めた白い雪、竹の垣根、咲き誇る赤い椿。全てがこの美しい空間に必要なものらしかった。遠くに見えるのは白い山々。春なら桜、秋なら紅葉が見られるだろう。こんなに美しいのに潰されてしまうなんて勿体無い。いや、罪だとすら思う。鈴音はそこまで考えて、もしかして一連の事件の犯人は、旅館が潰されるのが嫌なのかと思い当たった。
その時、カラリと慎ましやかな音を立て、脱衣場の引き戸が開いた。白い手拭いで身体を隠しながら入ってきた赤い瞳の少女は。
「呉葉さん?」
「鈴音さん…」

呉葉さんがいるってことは、男湯で竜星が戦っているのは右京さんか。とすると、犯人は今にも女湯に現れるかもしれないんだ。これでゆっくり出来ると思ったのに。
がっくりと肩を落とす鈴音に、呉葉は怪訝そうにしながら湯に入る。
「こうやって話すの、初めてですね」
「えぇ、まあ…」
呉葉から話しかけてきた。鈴音は今までなかった展開に戸惑いながら返した。
「呉葉さんたちは…今日も何か盗りにきたの?」
鈴音が少々ぶしつけとも取れる質問をする。呉葉は全く気にしていない様子でさらりと答える。
「しいていうならここのお湯でしょうか?何でも特別な力があるらしくて、潰される前に玄海博士が小瓶に一杯、どうしても欲しいんだそうです。」
「そう…」
ここにも、温泉が無くなるのを惜しんでいる人がいる。鈴音はますますやりきれなくなった。
「鈴音さんは?」
呉葉に聞かれて、鈴音は知っている限りのことを答える。
「…でね、その犯人を捕まえようとしてるんだけどね。竜星が今攻撃してるのが右京さんだとすると、今にも犯人がこっちに来るんじゃないかって気が気で…」
「そうですか。」
呉葉はどかーん、ばきーんと温泉旅館にあるまじき騒音を垣根の向こうで撒き散らす男たちの方に一瞥をくれる。
「…私は右京さんのこと、捕まえようとか思ってないからね。」
命の恩人だし。鈴音が言うと、呉葉も達観したように言った。
「竜星君だって、それがお仕事だから仕方ないのでしょう。私も鈴音さんに危害を加えるつもりはもうありません。」
「それはありがたいわ。」
二ヶ月前、初めて出会ったとき、呉葉は右京を守るために鈴音に斬りかかってきた。それを思うと、今二人で仲良く温泉に浸かっていることが不思議に思える。夏の終わりにこの世界に飛ばされてきて、あまりにも多くの不可思議を体験してきた鈴音でもそう思った。

「でも、竜星が仕事だからって、右京さんが捕まっちゃったら」
「大丈夫です、右京は捕まりません」
「そお…」
忠誠心なんだかのろけなんだか。でもこんなに信じてるってなんか羨ましい。序でにもっと羨ましいのは。無意識に胸元に視線が向かってしまう。
「…さっきから思ってたけど良いなあ…」
「?」

「で、出会い頭に杖向ける奴があるかっ!」
「お前はお尋ねものだからな、管轄外だからって放っておくわけには行かないのさ。」
「温泉くらい使わせてくれよっ!!今回はちゃんと金払ってるし、盗りたいものだってお湯をペットボトルに一杯程度なんだから」
タオル一枚の無防備な状態で攻撃されて右京は逃げ回るしかなかった。
「大体何でお前、そんな手柄に拘るんだよ!天魔連のことだし良いように使われてるんじゃないか?」
竜星がピタリと杖を向けた。右京にもう逃げ場は無い、後ろにあるのは石の壁だけである。竜星はにたりと笑った。
「お前ならわかってるかと思ってたがな。所詮バカはバカか。」
「…?」

その時、右京にとっては天の助けか、女湯からキャーッと少女の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「!」
竜星は右京から杖を逸らし、湯からあがって飛び出した。
右京も呉葉の無事を確かめるべく竜星の後を追って飛び出す。しかし右京は空中飛行術を使って高い壁を超える直前、とんでもない事に気がついた。
「待て神崎、女湯ってことはーーー…」
がぽがぽがぽーん。竜星と右京を襲う、無数の桶と石鹸の嵐。
桶の金具部分が眉間にクリティカルヒットした竜星は、切れて血を流す部分を手で押さえつつも桶を投げつけた下手人に叫び返す。
「何すんだよ!お前が呼んだから来たんじゃねーか!!」
「最っ低、人には見張り頼んでおいてそんなことするなんて!それに右京さんまで!!」
さっと身体にバスタオルを巻いた鈴音がまた新たな桶を引っ掴んで叫ぶ。
「右京、私はともかく鈴音さんも居るのに…」
赤い瞳に冷たい軽蔑の色を湛えて呉葉は黒い剣の切っ先を主人に向けている。
「違う、俺は無実だ!!」
「だったら紛らわしい悲鳴上げてんじゃねえよ、お前こそ状況を考えろ自意識過剰のドラム缶!」
「何だってーー?!!」
「?」
呉葉は竜星の言ったことに首をかしげた。鈴音はドラム缶発言に反応して我を失い、持っていた桶をまたぶん投げたが、呉葉は「悲鳴」の部分について疑問に思ったのだった。私たちの内のどちらも悲鳴なんて挙げていない。鈴音さんの言ってた温泉嵐の犯人が何らかの術を使って男湯の二人に悲鳴を聞かせたとすると。呉葉はそのことを伝えようとしたが、右京は既に頭を抱えながら壁の向こうに避難していたし、竜星も飛んできた桶を魔力でぶち割って肩をいからせ男湯へと戻って言ったばかりだった。
「ホントに嫌な奴!!!」
鈴音が顔を真っ赤にして温泉に戻る。いい加減のぼせそうだし、竜星があんな調子ならもう見張りなんてやってあげないとか言いつつ律儀な事だ。呉葉も付き合ってあげることにする。その時、
「あらまあ、随分散らかってるのねえ」
そんな事を言いながらふくよかな体形の四十くらいのおばさんが入ってきた。

後編?に続く
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Posted at 15:07 | マダム沌夕 | COM(1) | TB(0) |
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