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2011.04.30

マジラバ第10話 恋の鞘当て?!あの娘のハートと一級魔導士を奪れ!!中編①

「はぁーい良いですかぁ、五級魔導士試験は筆記、実技、潜在魔力量測定の三段階で行われまーす。筆記を合格した子が実技を受け、実技も合格した子が魔力量を測定し、全てに合格した子だけが五級魔導士の資格を得まーす。」
甘ったるく間延びした試験監督の声。テスト前だと言うのに緊張感の欠片も無くわいわいがやがやと騒ぐガキンチョども。どう見ても小学生くらいの子供たちだらけの狭い教室のど真ん中で、たった独り高校生の鈴音は肩身が狭そうに縮こまっていた。常識などについてまだまだ未熟であるが故に歯に衣着せぬガキンチョどもの自分に対する印象が耳に入り、額に十字にも似た怒りマークが出現する。
「ねーあのお姉ちゃん、オトナなのに五級試験受けてるよ」
「やだあ、恥ずかしくないのかなオトナのくせに」
あはははは♪と至極無邪気で高らかな笑い声を、鈴音は教科書を読むのに没頭することで無視しようと努めた。
…いいかい君たち、世間にはやっていいことと悪いことがあって、年上の人をそんな風に侮辱するのは間違い無く後者の方であるのだよ。君たちは魔法の腕さえ良ければオールオッケーって世界に住んでるんだろうからそんな躾は受けたことも無いんだろうけど、普通外の世界でそんなことをしたらブッ飛ばされるよ、まじで。
竜星の人間性がなって無いわけだ、と知ったような顔で達観した振りをして、鈴音は恥ずかしさや怒りを心の奥に押し込める。冷静さを取り戻したところで薬品調合のおさらいを頭の中で行う。
えーと、ピーマンも人参も甘いお菓子の味に変えてしまう味覚変換薬の作り方は…スマトラ巨大マンドラゴラの花粉10gに火鼠の毛を三本合わせて煎じて、バジルの粉末を3gとトニックウォーター100ml加えて空色になるまで攪拌する…と。正解。
自分が記憶している事と教科書に書いてある事が寸分違わず一致することを確認して、鈴音は安心して教科書をカバンの中に仕舞った。
 比久尼さんには悪いけど、出来る事なら私は合格したい。そして、魔女としての一歩を踏み出したい。
 鈴音はペンを握り、試験監督の「はじめ!」の声とともに目の前に出現した解答用紙と向き合った。

 一方竜星は、一級魔導士の筆記試験の解答欄を次々に埋めながら後ろから前から襲い来るライバルたちの妨害魔法を跳ね返していた。こいつは出来る、と噂される奴は、必ず苛烈なほどの妨害にあう。何しろルールが無いのが一級魔導士昇級・査定試験におけるルールなのだ。試験監督何かは教室に入りもせずに廊下に座ってグラビア写真集など眺めながら退屈そうに鼻を穿っている。竜星はすっと首筋を見えない魔力の波動が掠めたのに気がついた。
 これは、『伸縮自在の目』。自分の目に入る物事の範囲を一定時間の間、自在に操ることのできる技だ。竜星はすかさず魔法で解答用紙に書かれた文字の順序をバラバラにしてしまう。相手がどんなに困っていたって解答を教えてやる義理は無い。さらに自分でも『伸縮自在の目』を作り出し、持ち主の元に戻ろうとする『目』に絡ませて逆に相手の解答用紙を覗いてやった。…殆ど白紙じゃねーかだっせえ。
 このようなカンニングなんかは当たり前、中には切り取り&貼り付けの要領で人が書いた解答をそっくりそのまま切り取って自分のものにしてしまう者もいる。ライバルの妨害も出来て自分の成績も上がる、まさに一石二鳥って訳だ。それだけでなく本当に意味も無く、命に関わる位の攻撃をしてくる奴も居るのである。そんな乱暴な人には狙われないで済むことを祈るのみである。しかし、竜星のずっと後方の席で、まさにそんな命の危機に晒されようとしている生徒がいた。

「筆記試験も半分実技みたいなもんだと聞いてはいたが…」
「鬱陶し過ぎますよ…」
樋口と諸星は、必死で周りから放たれる妨害魔法・カンニング魔法の数々を撥ね退けながらその合間にペンを走らせていた。これでは呪いの防御方法の試験なのか筆記試験なのか解ったものではない。おかげで問題は難しいが何とか解ける程度なのに、遅々として進まない。残り時間はあと半分なのに、解答欄はまだ三分の一も埋まっていない。
「このっ…こんなだから一級魔導士に性格悪いのが増えるんだよっ!」
「そもそも筆記が解ける知識よりうまくカンニング出来る能力の方が大事なら、筆記なんてやらなきゃ良いんですよ!」
昨晩自分たちも竜星を闇打ちしようとした事実は棚に上げて、二人は我慢の限界といった風に叫んだ。試験中だがどうせ監督は廊下で鼻血でも垂らしている頃だろう。
「もういいパスカル、カンニングくらいなら許してやろうぜ。時間の無駄だ。」
樋口に、というよりは自分に言い聞かせるようにして諸星がペンを握り直したその時。
「あっ…」
樋口が喉に手をやった。
「どうした?」
諸星の問いには答えず、というより答えられず、樋口は苦しそうにもがき苦しみだした。両手を喉にやり、首を絞めようとする何かを必死で引きはがそうとするみたいに。そのうち、ガターンと音を立てて樋口は椅子ごと床に倒れた。
「パスカル!!」
 諸星は勢いよく立ちあがる。それを咎める試験監督はいない。しかし、その声に反応して助けてくれる者も居ない。みんな石のように一斉に下を向いて一心不乱にペンを走らせている…少なくとも表面上は。
樋口はぐいぐい首の柔らかい皮膚に食い込んで絞め殺そうとする見えない何かと戦っているが、そろそろ体力の限界のようだ。樋口の腕から急激に力が抜け、樋口は仰向けに倒れた。その目は白目を剥いて、口からは泡を吐いている。
 なんて事を…。試験中に平気で悪戯や妨害の域をはるかに超えた、こんなことをする奴も、ライバルとは言え誰かが命の危機にさらされているのを黙って見ている奴も、最低だ。樋口はまだ死んでいない。気絶しているようだった。諸星は樋口の首に手を当てて武器が何なのかを探る。しかし、もう樋口の首には何も掛けられていなかった。ただ、首の皮膚の上に赤い鎖の痕がくっきりと残っている。これで首を絞めたのか。武器を透明にして音も無く襲いかかる戦法を得意としていて、こういう卑劣な事をしでかしそうな奴、だったら一人しか思い当たらない。俺達より一つ上の、去年卒業した間宮透。あのキモオタ変態野郎。諸星は杖を右手に召還し、窓際に向かってその先端を向けた。とてつもなく大きなエネルギーが杖の先端に集中して、青白い玉を作る。
 と、諸星のズボンの裾をくいくいと引っ張るよわよわしい力。諸星は驚く。
「ぱすかっ…」
樋口はすかさず自分の唇に人差し指を当てて静かにするよう合図する。諸星は樋口を気遣ってその体を起こそうとする振りをしながらほとんど唇を動かさずに聞いた。
「気がついたのか、っていうかよく生きてたな」
樋口もまだ意識が戻らないかのようにだらんと身体を弛緩させて蚊の囁きよりも微かな声で答える。
「相似魔法ですよ。少し身体の大きさを変えたんです。少しだけ小さくなることで鎖の締め付けから逃れることが出来たんです。あとは死んだふり。早めに解放されたかったから。」
樋口は目だけを動かして諸星の杖の先にあるエネルギーの塊を見上げた。
「それで間宮を攻撃するつもりですね。でも、君の魔法じゃ間宮だけで無く教室の半分吹っ飛ばしてしまいますよ。そうなったらいくらこの試験がルール無しだって、試験監督が黙っている筈がありません。僕に考えがあります…」

間宮がくすくすと、わずかに笑みを浮かべながら自分の解答用紙と向き直ったその時、ばぼん、と小さく音を立てて間宮の身体が机よりも低く沈み、見えなくなった。椅子の脚を四本同時に豪快に吹っ飛ばされ、間宮は強かに尻もちを突いた。
「君の魔力を僕の力で縮小しました。取りあえず今はこれで勘弁してあげましょう」
樋口はまだ幾分苦しそうに、しかし悠々と立ち上がって机に戻った。
「納得いかねえが、ざまあみろだ」
実技の予選および本試験でこのお礼は改めてたっぷりしてやることを心に誓い、諸星も椅子に座り直した。そして。
「…」
樋口も諸星も、やっとのことで半分近くまで文字で埋めた筈の解答用紙が目を離した隙に白紙に戻っているのに気がついた。『道真が・白紙に返す・なんとやら』遣唐使、だっけ?エレクトリカー(魔力の無い人間に対する呼称で最も一般的で無難な呼び方)の歴史はおざなりにしか習わんからうろおぼえだけど。
 教室の前に掛けられた丸いローマ数字の時計は残り時間があと十分しかないことを示していた。二人の前にあまりに過酷な現実が圧し掛かる。
 答え、今の事件で殆ど頭ん中から吹っ飛んじまったよ。
 それでも一級の資格を手にして金と地位と良い女をゲットするためには再びペンを握るしかない。樋口と諸星は滂沱の赤い涙を流しながら第一問めに取り掛かった。

「…何よ、これは…」
過去五年間の傾向と全然違う。鈴音は解答用紙を見下ろして、ペンを握りしめたまま彫像のように固まっていた。
 どうしよう。全然解けない。知らないよ飛行術の理論なんて。強力睡眠薬『イバラ姫の涙』の作り方なんて、私が覚えてる限り私が読んだどの本にも載っていなかった。
 周りではさらさらとペンと紙が擦れ合う音が途切れることなく続いている。教室の壁に掛けられた時計の長針が文字盤上をくるくる滑る。それが鈴音をますます焦らせる。
 これは、比久尼さんの望み通りになってしまいそうな予感…
いやいやいや!鈴音はカンニングと疑われない程度に顔を上げる。そんな事じゃだめだ、昔お母さんが言ってたじゃないか。出鱈目でも良いから解答欄には何かしら書いておきなさいって。どうしても答えが思いつかなかったらカレーの作り方で良いからって! 
 流石にカレーの作り方を書くことはしないつもりだが…

 五級魔導士試験の監督の先生は、一級昇級・査定試験の方のそれとは比べ物にならないくらい働き者であった。東にペンを落とした者があればすかさず拾いに行ってやり、西に腹痛を訴える学生が有ればポケットから薬を出してやり、北に不自然にきょろきょろしている奴があれば『可笑しなことをしたら失格にするぞ』と優しく諫めてやり、南に名前を書き忘れている生徒が有ればこっそり注意を促してやり、と独楽鼠のように教室を動き回っていた。そんな彼は、密かに今回の受験者の中で唯一十五歳以上の鈴音にかなり興味を持っていた。
 青い襟にピンクのリボンの華やかなセーラー服…ということは外部の子か。天魔連の魔導士養成学校以外から魔導士検定を受けにくる者が全くいない訳ではないが、やはり内部生より少数派であることは否めないし、さらに五級の受験生は大体が初等部や小学生といった子供か稀に魔力の薄い中高年と相場が決まっていた。そんな珍しい立場の鈴音の、魔法に関する出来不出来に興味が湧くのも当然の流れで。先生は見回りの振りをして、鈴音のすぐ横の挨路を通りながらさり気無く鈴音の解答を覗きこむ。
「…」
 先生はポーカーフェイスに徹していたが、やや失望した様子で視線を他の生徒たちに移した。
残り時間十分の時点で殆どが白紙…書いてある解答もその多くは見当違いの物だった。しかもそれが、あんなに真剣に頭を抱え込んで捻り出された物のようなのだ。あの程度で受けようと思ったなんて、きっと彼女は五級だからといって甘く見ていたのに違いない。先生は鈴音に対する興味も期待も全て忘れ、自分の職務に没頭することにした。

ごーん、ごーんと一介の学校のチャイムにしては無駄に荘厳な鐘の音がなる。
「終了!受験生はペンを置いて下さい!!」
試験監督が大声を張り上げて告げ、杖の一振りでまだ未練がましく解答を書き続けようとする生徒たちから解答用紙を一気に奪い去っていくのは五級も一級も同じことだった。鈴音は肩を鳩尾くらいまで落として、竜星は他人事のような無関心さで、樋口・諸星は疲れ切った様子で、間宮は恐らく内出血して真っ黒に変色しているであろう尻を撫で摩りながら、そして、着いた席が一番後ろであったことと普段からドジっ子で他愛ないと評されていた事、先日の研究室爆破事件がその不名誉な評価に拍車をかけたことが幸いして何の妨害も受けず、滞り無く自分の実力を発揮できた不二里ナツメは気持ち良さそうに伸びなどしながら、教室を後にした。試験監督たちは傍らに解答用紙の束を空中に浮かせて小走りに歩きながら、受験生たちに触れまわる。
「試験結果は十分後、校舎前掲示板に貼りだします!必ず見に行って、合格者は速やかに実技の試験場に移動すること!」
十分後?早っ、流石魔法学校の試験などと突っ込む気力も鈴音には無かった。結果もあれでは目に見えている。それでも一縷の希望を託して現実と向き合う悲壮な決意をしながら、鈴音は校舎を出た。

実技は、この後すぐ…
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Posted at 00:41 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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