--.--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2011.02.02

目のない魚の話



(水の中、目が無い魚が泳いでいる)


「ふーん、どれどれ?物価値上がりに、土地は・・・そろそろ上がるかなぁ?・・・あ、また揚がってる」
「椚さん、飯時に新聞は行儀悪、・・・痛った」
すかさず入った裏拳には、食事中のエンリョもへったくれもない。凛と着こんだ矢がすり緋袴、ぱちりと開けた瞳は得物を見つけた猫のように、楽しげに爛々と光っている。暫く大人しくカウンターに向かい鯛茶づけをかきこんでいたが、やがて読みかけの新聞に空どんぶりを置くと、乙女はこう言った。
「ごちそうさまでした!行くわよ」

空どんぶりの目印、それは、ある記事の上に置かれていた。
「---目のない、魚?」
「そ。最初に見たのは、川遊びの少年、その後が西にある寝主湖、えーっとそれから3回目が」
「都木地に揚がった、とれとれぴちぴちのアジ」
「・・・で、それが目なし魚」
「目が無いまま泳いでるのよ!すごくない!?」
「メザシにしやすくて良いんじゃないすかね」
魚屋に並ぶ棒に刺さったメザシを見ながら、蒐は興味なさそうな口調で、椚はもの珍しい顔で通り過ぎた。そしてハッと気付く。
「困るわよ。あらし屋の目玉漬けが食べられないじゃない!」


(新聞のタイトル「目なし魚、目撃数増える」)



ソファにごろ寝で新聞を手にした蒐が、開店準備中の椚にハタキではたかれながら尋ねてみる。
「椚さん、ちょっと店空けて良い?」
「いいけど、苳蒔クンのとこ?」
「そそ」
攻撃が止んだその隙に、男はカーペット敷きのあがりかまちから下駄を片手に、土間へと降りる。
洋風の帳簿机の向こうに回って、家主はふぅーん、と値踏みした。今日の仕事何だったかな別に明日でも利率大丈夫か、等々ぶつぶつ考え事を口に出す間、準備万端の男はさしていらだつ事も無く、大人しくぼんやりしている。何気なく向けた顔の先、どうやら柱の角に張られた水難除けの護符が気になるらしい。
「あたしも行くから、店閉めちゃえばいいんじゃないかしら」
「名案だと思うケド、椚さん来るの?」
護符に描かれた網目模様に気を取られ、男はハタキが突きつけられる気配でようやっと、椚に向き直る。家主はカメラ用の作り笑いでにっこり笑い、片眉をぴっと跳ね上げている。
「来ちゃ悪い?」
「いいいえ悪いなんてそんなことは」
「そう。じゃ、行きましょ」
さして気分を害した風もなく武器を取り下げ、ハタキを壁に、巾着を手に持ち変える。機敏な動きで下駄を履くまでわずか3秒。
「ぼさっとしてると、置いてかれるわよ」
先に外に出るのを見ると、どうやら鍵を閉めるのは居候の仕事になったようである。


街に出てみれば世間は昼休みちょっと過ぎ、住宅混じりの商店通りは人もまばらだ。
二人は人工づくりの天皇池をぐるっと囲む山手公園の並木を通り抜け、大問屋に卸売、各種事業所が立ち並ぶ企倉店街の大路にやってきた。ここいらは普段から、ちょっと気を抜くと小路の角から荷積み車が跳び出てくるので有名だが、今日はまた一段と騒々しい。急ぎ歩く人々に混じって祭り提灯をぶら下げた大きな屋台横断していく。箱を山にして運ぶ店子に、仕入れに寄った屋台の持ち主。屋台をやる者には家族ぐるみ国中回っている者も多いから、それぞれの店のロゴ入りシャツを着た子供があちこち走りまわっていたりする。ひと月先に迫った、都界挙げての祭りに向けて活気づいていた。
「そういえば、来月ひめまつりね。うちの店も何かやろっかなー」
「ああ、ひめまつりね・・・って椚さん、ソレ何?」
「ひめまつりも知らないって・・・」
お前は一体どこの田舎から来た、と尋問したくなるほど都界に疎いツレに、都界育ちの椚は呆れながらも説明してやる。
「あー、簡単に言うとね、都界の政治を執り行う、お姫様の誕生会よ。日の本帝国各地からお祝いの使節団が来て、街中の人がおもてなしついでにお祭り騒ぎ。しかも一週間!」
「そりゃいいな。一週間の休暇!」
「あ。あんたは休暇なし」
「何でさ?」
「官僚はお姫様&使者の世話係として出仕だから?」
「俺って一応、登記上は浮民で戸籍なし、流しの人間ってことに・・・」
「官位がある人間・・・寵服が着られる人間には全員、徴集状が行ってるはずよ」
横目でじぃーと睨みながら、“寵服”と言うのに合わせて椚の手が蒐の和服を引っ張る。特徴ある黒蚕の糸を織り込んだ蒐の服は、“寵服”の必須スタイルである着物形式と、素材の項目にあてはまる。本人が自分の官位をきちんと把握しているかはともかく、蒐が官位持ちの、それも何らかの特殊な技能によって認められた人間である事は明白だった。今は単なる暇人だが、もし官位を持っていないのだとしたら、街に入って数日で黒服にしょっぴかれていたはずだ。
「ここ数年、山ン中に居たから・・・どうかな?」
本ッ気で自分に届く手紙などないと思っている蒐に、何気ないそぶりで椚が言う。
「来週にはわかるわよ」

そこで二人は目的の店に辿りついた。

(過去屋正面、どーん)


(面子の取り次ぎ)
「苳蒔クン、いるかい?」
※後に話に出てくる面子。4人目の枢軸。
パンダの面を付けた受付嬢が、静かにうなづく。
音も立てずに立ちあがると、苳蒔が“めんつ”と呼ぶ面かぶりの店子は抑揚の少ない声で案内を始めた。
「お二階にお通しいたします。足元にご注意を」



・・・・改編・続きあり升
スポンサーサイト
Posted at 20:20 | 未分類 | COM(1) | TB(0) |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。