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2010.10.26

マジラバ 第八話 赤羽魔法学校の攻防!! 前編

「できたあっ!!」
一筋の月の光さえ通さない雑木林に囲まれた、廃墟と見まごうボロボロの洋館の一室。鈴音の歓声が高らかに響く。その手に握る小さなクリスタルガラス製のメスフラスコの中で揺れる液体は、カーネリアンのように強い薄紅色をしてぼんやり光を放っていた。
「ほー、珍しくスジが良いな。魔力使わない分野だからか」
傍で必要以上に偉っそーに分厚い黒い革表紙の本を掲げ持ちながら鈴音にあれこれ指示していた魔法の師匠(?)竜星は口角を吊りあげて、希少な癖に半分けなしているようにも聞こえる褒め言葉をのたまった。
「一言余計だよっ!」
鈴音は眉を吊り上げて突っぱねると、メスフラスコに栓をして、机の上一面に広がった薬包紙や銀色の匙や、スマトラオオマンドラゴラの花粉や冥界ザクロの種を片付け始めた。竜星はフラスコを取り上げて軽く振りながら鈴音が今しがた作成した薬品、『ヴィーナスの甘露』を眺めながら言う。
「試しに飲むか?」
「謹んでお断りいたします。あんたもそれ、誰かに使うんじゃないでしょうね?!」
鈴音は見習い魔女用杖を振って(忘れがちだが一応持っているのだ!)薬包紙をゴミ箱まで吹き飛ばそうとして、却ってちりぢりに散らばらせてしまい、顔を顰めながら手でかき集めていた。竜星はその様子を実に楽しそうに観賞しつつ、何故だか意味深に笑った。
「さぁてね。」
気持ち悪い…と鈴音は呟きながら本や材料の入った瓶を棚に戻し終えた。
「終わったか。んじゃ次、杖魔法!」
竜星はぱしんと指を鳴らすだけ、杖すらも使わずに必要な本を自分から三メートルは離れた棚から引っ張り出し、手に収めるとまたしても鈴音に指示をした。
「え?!もう日付変わってるんだけど…まだ学校の宿題やってないんだけど…」
「つべこべ言わずに用意する!取りあえずここにいらない紙の束があるからそれ杖で部屋の外まで運んでみな。」
さっきみたいに手は使うなよ、と竜星は笑う。鈴音は悔しそうに杖を振りあげた。

不二里財閥の船上パーティーの事件より二週間が経つ。鈴音の手首の痣もすっかり消え、竜星の傷も優秀な魔法治療のおかげで癒えつつあった。しかし生傷の絶えない男である。それはそうとして、不思議な事に竜星の鈴音に対する魔法教育が以前とは見違えるほど熱心になった。これまでは至極テキトーに本を読ませ、テキトーに杖を振らせ、それで鈴音が何も出来なくても別に構やしねえよといった放任状態だったのが、毎晩毎晩几帳面に学校から帰った後に竜星の部屋で、薬品調合だの基本的な杖魔法だの、魔法を扱いモノを操る上で必要な知識だのを鈴音に付きっきりで叩きこんでいるのだった。魂を吸われかけたり、拘束しておもちゃにさせられそうになったり、鈴音は連続で殆ど死ぬような目に合っている。鈴音自身はこの世界に来てから死の危険に晒されることが不本意ながら増えていたのであまり気にしていなかったが、竜星はどういうわけかここ二回の事件で考え方を改めたようだ。竜星が傍に居なくてもある程度自分で自分の身を守れるようになってほしいと思ったのであろうか。

「赤羽魔法学校の講師?」
それはその日の朝。鈴音が寝不足で幽霊でも視えそうなくらい赤く充血した目を擦り擦り白飯を『例の炊飯器』からよそい、竜星が鈴音と同じくらいしか寝ていない筈なのに大変爽やかそうに黒い浴衣(寝巻)をひるがえして味噌汁を啜る、そんな平凡な朝食時に持ち込まれた話だった。定時連絡用鏡からいつものように比久尼さんの姿が現れ、竜星の「今何時だと思ってるんですか」とものすごく迷惑そうな突っ込みを無視して開口一番話し出したものだった。
「そうだ。次の以来は、赤羽魔法学校で臨時講師をして貰う事だ。竜星、最近鈴音の教育にずいぶん熱心な様子じゃないか。意外に似合う仕事なんじゃないか?」
比久尼がよせばいいのに、からかうように笑う。しかし竜星は猜疑心たっぷりに目を細めて比久尼を見据える。
「…なんだ。」
「物凄く、止めどなく、怪しいんです。いっつも俺には面倒な仕事しか回して来ないじゃないですか。どうして今回だけそんな楽そうな仕事なんですか。」
比久尼はわずかに申し訳なさそう、とも取れる表情をしたが、すぐにいつもの横柄そうな様子に戻って
「『今をときめく天才魔導士の授業!』と銘打てば赤羽の生徒が増えるだろう。お前最近も手柄上げたばっかりだし。その中でもし優秀な子がいれば、将来天魔連の心強い一員になれる。人手不足なんだよ。」
「…そうですか」
自分がそんな仕事に起用されることに対しての謎は解けたが、やはり客寄せパンダにされることが気に食わない様子の竜星である。そこでお決まりのように新たな語句について質問する鈴音。
「あの、赤羽魔法学校って、何なんですか?」
比久尼は鈴音の質問に対しては大抵いつでも快く答える。
「魔法の英才塾のようなものだ。天魔連の魔導士養成学校は普通過程だったら中学高校あるいは大学に相当するが、赤羽は小学生くらいまでの児童が天魔連の入学試験や五級魔導士試験に受かるために通う。ちなみに天魔連は入学してみっちりそこで魔法を習っても、時々通うようにしても、試験だけ受けに来てもオーケーだ。」
「さらに説明すると、竜星は早く入学してプラス飛び級してんだよー。」
テーブル上に座って焼いたシシャモをかじっていたホーリーが口を挟む。
「あれ、それ前どっかで言わなかったか?」
「いや、私は知らないよ。」
竜星は白飯をもそもそと咀嚼しながら他人事のように、当然何も知らない鈴音に聞いた。
「とにかく、仕事を頼んだ。うまーく愛嬌振りまいて、むしろお母さんの方を虜にするんだぞ。」
「…俺は日曜朝の特撮の戦隊モノの役者かなんかですか。」
比久尼は竜星の文句にふんと皮肉な笑みを浮かべると、鏡からフェードアウトしていった。
「赤羽学校かあ、どんな感じなんだろう」
鈴音は広口瓶の中から海苔玉ふりかけを選び取りながら言った。竜星は鼻から味噌汁を大げさに噴出した。
「…何よ。」
鈴音の睨みにも全然ひるまず、竜星は半笑いで聞いた。
「まさかお前、入学したいとか言いださねえよな?」
鈴音はちょっと憤慨しつつ返す。
「だって、専門として魔法を教えてる先生に師事できるんでしょ?」
「無理無理」
「何でよ、私には入学する力も無いっての」
「自覚してんじゃねえか。いや、力量もそうだけど、比久尼さん言ってたろ。「小学生」までだって」
「あ…」
「ま、お前ならランドセルしょって黄色い帽子でも被っときゃ騙されるかもしれないけどな!」
「ホント失礼ねあんた!」
「どっちがだよ。俺じゃ満足出来ねーのか」
「ご、ごめんそういうわけじゃ…」
「竜星なんかエロい」
シシャモを一匹骨にしたばかりのホーリーの突っ込みに、竜星は無数の銀の刃をダーツのように浴びせかけた。

そんなこんなで今日も平和な大都会・燈京。何気ない生活が吐きだした汚水が地下に溢れるとも知らず。追いやられた美しくない人間や妖魔が汚物にまみれてそれでも生きていると知らず。そして、虐げられた命の不満が、また一つ憎悪の花を咲かそうとしていると知らず。

「赤羽塾を…乗っ取る?」
原賀玄海武器製造所の茶の間。畳が敷き詰められ、真中にちゃぶ台が置いてある。何に使うのかわからない工具類が散乱する、ドワーフの玄海が何やらまたくだらない機械を発明しているらしい小さな爆発音が断続的に聞こえてくる空間で、橘右京はかき氷を食べながら自分が今企てている計画を楽しそうに話す白い着物の雪女の言葉をオウム返しにした。
「そー。右京ちゃん、協力してくれるでしょ。右京ちゃんだって、ちまちま義賊やってさ、そりゃ子供たちやお母さんたちは束の間でも生活費が出来て喜んでるけど、妖魔の生活についての根本的な改善策にはなって無いじゃないの。」
「…」
右京は赤い水色に金の火花が散る芳しい香りの紅茶を啜りながら雪女の言葉を黙って聞いていた。それは『ちまちま』という言い草に対して少し憤慨しているようにも見えた。雪女は右京が何も返答してくれないので更に続ける。
「乗っ取りだけじゃないよ、乗っ取って、関東担当の一級魔導士たちの注意を引きつけている間に、烏天狗の部下たちとか河童とか私の一族が、警備の手薄になった天魔連燈京支部を一気に襲撃する。で、燈京支部がこれでブッ潰れたら次は名古耶支部。こうして主要な支部を壊していくことで天魔連の機能をそぎ取る。その間に天魔連に不満を持ってる妖魔たちや…そうね、エレクトリカー(魔力を持たない人間に対する一般的で最も無難な呼称)も大事な戦力になるかもね。彼らが私たちに触発されて色々コトをおこしてくれれば日本の支配権を天魔連の手から叩き落とせるんじゃないかしら」
雪女は指を組んでその上に顎を載せ、右京の反応を待った。右京は紅茶のカップをちゃぶ台に置くと、呆れたように口を開いた。
「んな単純な計画で…お前さんの陣営にどれだけ人手がいるのか知らねーけどさ。話聞く限り主に動いてるのは烏天狗と雪女の一族くらいだろ?大体な、一件の乗っ取り事件につられて出動する一級魔導士の数なんかタカが知れてるって。精々神崎一人いれば事が足りるよ。それで、天魔連支部の中では一番一級二級を多く抱える燈京支部を、カラスや河童で攻撃?フツーに全滅させられて終わるよ。」
子供の戯言に対するような対応をされた雪女はカチンときて、右京に反論する。
「またでた、神崎。右京ちゃん先日、神崎竜星と一緒に戦ったの、私知ってるんだから。地下街の妖魔たちには失望させると悪いと思って黙ってあげてるけど。」
右京はわずかに決まり悪そうに、言い訳がましく弁解する。
「それとこれとは話が別だろ。って言うか、あれは仕方ないことだったし…」
雪女は自分で話を振っておきながら右京の言い訳はスルーした。
「確かに主だって計画してるのは私の一族と、烏天狗にフランケンくらいだけどさ。日本に天魔連を良く思ってない人たちは数え切れないほどいるのよ。知ってるでしょ。その人たちが動けば。何だったら呉葉ちゃんの一族も…」
「あいつの家族は天魔連に皆殺しにされたよ。その上音無一家は吸血鬼族の中でも浮いてるからな、あいつの仲間は事実上俺しかいない。」
右京にすっぱり断言されて雪女は申し訳なさにも似た感情で言葉に詰まる。右京はそこに畳みかけるように自分が雪女の計画に賛成しない理由を語った。
「仮に燈京支部を陥落させたとしても、次はどうなる?向こうも警戒強めるだろうから、そう簡単にはいかないと思うぜ。それにな、悪いけど一級魔導士一人でお前さんくらいの妖魔十人くらいの力はあるぞ。」
「そこで妖魔の味方してくれる元一級魔導士の出番でしょうが…」
「だから、俺一人魔導士がいたところでどうにもならないって。時期が早すぎんだよ。考えろよ、まず天魔連から盗んだ財産を元手にして妖魔達の生活改善と自立をはかりそれから…」
ズガン!ちゃぶ台のみならず右京の頭蓋を揺らす程強い音が茶の間中に響いた。雪女がちゃぶ台に手を着いて立ち上がったのだ。ピキピキピキ、程なく小さくとも不快感をあおる音が右京の耳に響いてきた。右京が両手の甲を這い上って来る張りつめた痛みに顔を顰めた時には既にちゃぶ台と焔草の茶の入った紙コップは、中身もろとも分厚い氷で覆われていた。雪女はだらりと垂らした白い前髪の向こうで右京をねめつけながら、低い声で呪うように恨むように呟いた。
「お前の味方は『どっち』だ。義賊行為はただの遊びか自己満足か。」
「…俺は両方救いたいんだよ。」
「共存しえた試しは無い。妖魔は魔族を許さない。結局魔族の命が惜しくなったなら今ここでお前を殺す」
それは困る。右京は両手に熱に変換した魔力をためて、皮膚の色が見えないくらい分厚く包んだ氷を一瞬にして溶かした。右京は、いとも簡単に自分の能力を解かれた雪女がちょっと悔しそうにしているのを見ながら言った。
「わかった。協力しよう。ただし条件がある。子供とか、弱い奴は絶対殺すな。子供に罪はないだろ。」
「…子供から殺った方が色々と効率いいのに~…」
雪女はそう言いながらも、渋々右京の要求を呑むことに決めたようだ。雪女はすっくと立ち上がった。
「さて、そうと決まれば早速準備しなきゃ。美味しいかき氷をごちそうさま。どこの水を使ったのか教えてよ。」
「知らん。玄海に聞いてくれ。」
右京にすげなく返されて、雪女は言われたとおりに玄海に聞きに行った。余程気に入ったらしい。
「あの氷の材料?ふっふーん、おっぱい触らせてくれたら教えてぴきぽけべきっ」
赤ら顔で油まみれの玄海を何とも美しい氷の彫像に変えて出て行く雪女の後ろ姿を見送りながら、右京は困ったように呟いた。
「さてどうしよう。」
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Posted at 00:42 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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