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2010.07.29

マジラバ第6話 謎の転校生!鈴音に迫る危機 後編①

「追いつけないって…それじゃあどーすんだよ!諦めるのか?!」
こういうことになってしまった責任の一端は自分にもあることを棚に上げ、ホーリーは竜星に詰め寄った。竜星は首筋にしがみついて揺さぶろうとするホーリーを鬱陶しそうに振り払う。
「時間の流れをずらすのはかなりの魔力がいるはずだ。普通の人間の行田の魂から作ったエネルギーを使ってるならそんな浪費をしたらすぐに尽きてしまうと思うが。」
竜星は再び空中に浮き上がる。目指すのは次の目的地、ステラバックスだ。

明石の思惑も竜星の追跡も、全く気付くことなく鈴音は歓声を上げた。初めて見る魔法仕掛けの遊園地に。思えば竜星とこういうとこに来たことがなかった。一緒に外出するときは任務があるときばっかりだったし。メリーゴーランド、ファンシーでカラフルな丸い屋根の下にぐるり、輪になって一様に前を向くのは白銀の毛並みのペガサスだった。ちょうどお客を変えるところで、現実のウマ属には着いていないはずの羽毛で覆われた翼は行儀良く折り畳まれていた。遊園地全体を取り囲む最大にして最も人気のある遊具、ジェットコースターのレールは所々、欠陥工事どころではないくらい致命的な距離分途切れている。その部分ではどうするのだろうと思っていたら、そこに差し掛かった宝石のような車両が虹色の霧を撒き散らしながらふわりと、飛んだ。
「すごいー!!」
変身中の魔法少女さながらに霧をダイレクトに浴びながら、鈴音は手をたたいた。明石はそれを見て、にっこり笑う。
「喜んでもらえてよかった。どれから乗る?」
「じゃ、じゃあ…オーソドックスにジェットコースターで。」
いい年こいてペガサスのメリーゴーランド♪などと抜かすのは恥ずかしかった。それに、いい年こいた男女二人が一頭のペガサスの背中に収まる図は絵になりすぎていて、身体が受け付けない。明石はやはり穏やかにほほ笑んだ。
「仰せのままに、お姫様。」

竜星はコーヒー豆を炒る複雑で魅惑的な香り漂う薄暗い店の中に立ち入った。先ほど直した腕時計の短針は1を、少し左にずれて指していた。
「ホーリー、すぐそこを曲がったところに服屋があるだろ。壁にでっかい時計があるから時間見てこい。」
小さな猫又は竜星の肩からするりと降りて、喫茶店を出て行った。程なくして戻ってきたホーリーは絶望したように言った。
「ダメだ、また時間をずらされてる。2時5分だってよ。十分前に『いいとも』終わったばっかなのに…」
「そうか。」
竜星は冷静であった。心なしか不敵な笑みを浮かべているようにも見える。
「何笑ってんだよ、この状況わかってんのか?」
気味悪そうに突っ込むホーリーに、竜星は答えた。
「お前こそわからないのか、時間のずれが一時間程度になった。あいつの魔力が尽きかけてるってことだ。一時間、昼飯食べて雑談してりゃそのくらいの時間は潰れる。あとはどうやって明石が俺と周りの時間をずらしたかわかれば…」
「あっ、あれ…」
ホーリーが突如叫んだ。何かを指し示す指は持っていないが、兎に角何かを指差すジェスチャーをしたホーリーの、示す方向をほとんど反射的に見る竜星。そこには、中身を飲み終わったプラスチックカップをお盆ごと返却口に置いている明石と鈴音がいた。竜星はすっと気配を消した。もしかしたら目に見える姿まで消したかもしれない。そして静かに、明石のもとへと歩み寄る。青白い幽かな稲妻とともに左手の中に現れたのは、らせん状の銀のナイフ。しかし、あと三メートルと言うところで明石は振り向いた。それでも構わずに左手を伸ばす竜星。浄化の刃が明石を貫こうとした。
「?!」
その瞬間のことだ。刃はぼろりと、ビスケットのように砕け散った。わずかな砂となって空中に溶けていく刃。明石は竜星をじっと見ていた。指先に、さっきまで見られなかった小さな丸い白い光を灯している。明石はその光を竜星めがけて放つ。竜星の視界が白一色になった。眩しさに目を瞑った一瞬、再び目を開いたとき、明石と鈴音はもう消えていた。
「竜星!」
ホーリーが呼ぶ声に振り向く。ややいら立ちを含んだ無表情が、出入口に目をやった瞬間驚きに変わる。そこには、立体的ではあるが実体と言うには妙に淡い、竜星の残像が突っ立っていた。竜星オリジナルは怒ったような喜んだような微妙な表情を浮かべ、残像に向かって歩いていく。残像にぶつかった瞬間、竜星は走馬燈のようなめくるめく映像が脳内を駆け巡るのに気づいた。店を行き来する客、客、客。様々な男や女や子供や老人が飲み物を頼んでは店の奥へと消えていく。この一時間に店を訪れた、竜星自身が見ていた竜星の知らない記憶を今、知った。

「竜星?」
ホーリーが不審そうに竜星に声をかける。竜星は微妙な表情をしたまま、言った。
「時間を止めることで…俺と周りの時間をずらしてたんだ。やっと謎が解けた。ホーリーお前の記憶もそこにいるぞ、別に拾わなくたって支障は無えけどな。」
「あっ、ホントだ」
ホーリーは淡い自分の肖像の額に自分の額をぶつけた。肖像はざあっと砂嵐と化し、ホーリーに竜星と同じ情報を伝えた。
「でもよ竜星、それがわかったってどうするんだ?さっきあいつ妙な技使ったじゃねえか。武器作り出しても使う前に壊されちまうんだぜ?」
竜星は今度こそ、はっきりと、不敵に笑った。
「その対応法も、わかった。」

ジェットコースターの先頭、鈴音は明石と並んで平和な悲鳴を上げていた。舟をモチーフとした愛らしい車両と虹色の霧に心惹かれて乗ってしまったは良いが、実は絶叫物苦手なのだった。夢の国を探検しに漕ぎ出した愛と勇気の舟だってそれは例外ではなく。
「ぎゃああああああっ!!」
色気も可愛げもない叫び声をあげて急降下していく鈴音。あっ、この急降下する感覚トラウマだ。ここに初めて来たときの。唯一にして決定的に違うのは、こっちはほぼ安全だということが保証されているところ。ぐいん、身体がGに引っ張られて今度は急上昇していく。命が危険に晒されるわけではないのに、この緊張感。怖い、怖い。車両はこの遊園地で一番高い所に差し掛かった。上るスピードがゆっくりになる。ここで安心してはいけない、きっと来る、さっきのなんかと比較にならない衝撃が、すぐそこに。
 過度の恐怖心によるものか、急降下→この世界に初めて来た日→初めて会った人の連想か、いきなり意識に割り込んできた、竜星が。何故に、あいつが?
 頭の中の竜星が、いつものように馬鹿にしたよーに嗤った。その時だ。
「あああああああっ?!!」
安心してはいけない、判り切ってた筈なのに!内臓すべて頂上に残して、空っぽの自分だけ落ちていくような気持ちの悪い浮遊感。
 例え45度の斜面を時速100キロで翔りる最中だとしても、それははっきり視界に入ってきた。当然である。ジェットコースターが進む先、レールの上ど真ん中にヒトが立膝ついて構えていたのだから。どこの馬鹿ガキだ、どこのドンキホーテだ…浮遊感とはまた違った恐怖で叫びたくなった鈴音であるが、そのドンキホーテが誰か分かった瞬間、あまりのことに目と口が全開になった。
「竜星?!」
何故に、あいつが?
誰かわかった瞬間、鈴音の意識は飛んだ。

僕はヒトの魂を全部昇華してエネルギーにするために、そのヒトの心を奪わないといけない。愛情という感情なくてもそのヒトに媚を売って、どんな望みでも叶えてあげて。そうしてそのヒトの心に近づいて、警戒という殻を取っ払ってむき出しにして、それから魂を、魔力もしくは生命力を、吸収する。それが手口だ。彼女…鈴音は異常に大きなエネルギーの持ち主だ。一目見てわかった。それだけではない。彼女の魔法の本質は、とんでもなく禍々しくて、とてつもなく魅力的だ。これを取り込めたら、冗談抜きで世界征服も夢じゃない。そんな面倒くさいことしないけどね。しかし…暫く見ていて、それほどに強力な魔力を持ちながら、彼女は何の力も発現していないことに気がついた。使えないのか、使い方がわからないのか…ともかく、これは好都合だと残り少ない魔力を使って全てが都合よく運ぶように仕向け、彼女に近づいた。それなのに…彼女、全く欲がないんだよ。何をしたいってあんまり言わないし。何よりも…気付いた時あまりに衝撃的過ぎて気が遠くなったけど…魂が其処にない。其処にないものは、奪えない。あり得ないけど、彼女は魂が無いのに動いている。生きて、息して、動いている。こんな恐ろしいことはないけど、やはりそのエネルギーは、食料としては魅力的だ。

 「キゼツさせたぞ!」
肩の上でホーリーが叫ぶ。竜星は構わず、他の客が時速100キロ以外の要因で恐怖の悲鳴を上げるのにも構わず、車両ごと明石を待ち受ける。明石は鈴音を抱えたままひらりと飛び降りた。竜星も飛んだ。それとほぼ同時に車両が通り過ぎた。
明石は鈴音を肩に担いで飛び降りた。が、空を飛ぶ魔力も残っていないため、十メートル以上の高さから垂直に飛び降りた衝撃を無防備な肉体に直接受けることになった。足の裏から両足を伝い、脳天に響く重い痺れ。勿論人間よりも丈夫に作られた身体であるから、傷つくこともない。竜星は風の中の綿毛ようにふわりと降りつつある最中だった。自分が取ることのできる道は二つ。一つは竜星の攻撃を受け入れることでその魔力を取り込むこと。二つめは、この場で強制的に鈴音の魂を取りだし、喰らうこと。明石はシャツの胸ポケットに手を当てた。そこにはあの黒衣の魔女に渡されたエメラルド色の小瓶が入っている。肉体から魂、魔力などエネルギーを引き剥がす薬だと言う。渡された時、自分は使うことを固辞した、いくら弱っていたって新魔法族としてのプライドはある。しかし、魔女はこう言った。『それでもあなた、生きたいんでしょ?』あの時、小瓶を地面に投げつけてガシャンと割ることができなかったのは自分の弱さか。でも、背に腹は代えられない。あと一回魔力を使ったら自分は消える。振り返ってみれば竜星が着地したところだった。明石は小瓶の栓を抜いた。
「あっ、あいつ何する気だ?!」
竜星の肩に乗った猫の言葉があまりにも典型的すぎて思わず笑いがこみあげてくる。明石は鈴音の口に輝く緑の液体を流し込んだ。鈴音の身体から、花火のような激しい、視力がおかしくなるほど強い光が放射状に広がった。
soul6

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Posted at 22:02 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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