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2010.05.15

マジラバ第6話 謎の転校生!鈴音に迫る危機前篇

「ねぇ聞いて聞いて聞いて!今日この教室に転校生が来るんだって!!!」
校長の頭よりまぶしく光り輝く笑顔で、三浦花枝は言った。
「…そうなんだ。」
花枝に気圧されはしたが、それでも大した興味は示さずに、鈴音は返した。その視線は『杖魔法のいろは』なる、小学生がお遊戯交じりで習うような呪文が書き連ねてあるページに至極真剣に注がれていた。今日の課題は13ページ、「お湯を沸騰させる魔法」。竜星がこの本を投げて渡したその時からもう一カ月近く経つが、まだそんな初歩の初歩にすら手こずっている。自分は真剣にやってるつもりなんだけど。竜星が真剣じゃないからだ、情けないと思いつつも最近はその仮説に言い訳することが多くなった。そんな自分が嫌になる。
「しかもすっごいかっこいいってウワサよ!あぁーどんな人なんだろっ!楽しみだね、鈴音!」
鈴音の冷淡ともいえる対応にもめげず、花枝は瞳をきらきらさせて空想する。
「別に。」
全く興味のない鈴音はクールに一蹴する。そこでやっと鈴音のノリの悪さに気がついた花枝は、ぷんすこと鼻を鳴らす。
「何よ!朝取り一番の新ネタなのに。折角、人が良さそうなオトコ紹介しよーとしてんのに。そんでもって神崎譲れ。」
「…あのね。」
鈴音は本を閉じた。朝からテンションの異様に高い花枝に、鈴音は額に手を置いてふーとため息をつく。
「譲るも何も、彼氏じゃないって何度言ったらわかるの。別に欲しけりゃそれで構わないから、奴の唇なりブレザーなり、好きなもの持ってってよ。」
「でもいつも一緒じゃない。」
「それはあいつが、いちおー魔法の師匠だからで…」
「あんだけべったりで何もない訳ないじゃない。」
花枝はきっぱり断言する。
「ネタはあがってんのよ鈴ちゃんよ~。甘いもの嫌いな神崎があんたの作ったケーキは食べるとか、あんたが神崎にお姫様抱っこされて帰ったとか、目撃情報がこれだけ在ってなお否定するとはずぶといわ。」
黒高女子みんなの羨望の的をー、とか言って泣き崩れる真似をする花枝を鈴音は無視することにした。どっからそんな情報しいれてくるんだ、憲法13条はどうした。そしてなぜ自分がわざわざ傷つくような返事を求める。マゾヒストか。色々突っ込みたいところはあるが、いちいち突っ込んでたらこっちが負ける。大体お姫様抱っこして帰ったのは右京さんと呉葉さんだし。竜星だったら右肩にかついで帰るのがせいぜいだ。ヘタしたらほっておかれるかも。
 そこで鈴音は花枝に気付かれないようにそっと竜星を盗み見る。鈴音の不肖の師匠は、小春日和の陽だまりの窓際にて『メイドのお仕事全部見せます』というタイトルの文庫本を退屈そーに読んでいた。ホントに、なんでモテるんだろ。
 ガラガラ、と引き戸があいて、五十は超えた天使の先生が入ってきた。こころなしかいつもの険のある表情が和らいでいるように見えた。先生のふわふわした白い翼に触れないように後ろを歩いて来るのは一人の少年。彼がクラスメートの方を向いて教壇に立ったとき、女性陣から黄色い声が上がった。ミルクのような肌、日本人離れした堀の深い顔立ち。風もないのに靡く少し長い薄茶色の髪。ファンタジックなほどの美少年に女生徒も、不覚にも男子生徒も心ときめいてしまったという。少年はにっこり笑って右手を上げ、歓迎の意に応えてから澄んだ声で自己紹介した。
「明石司です。宜しくお願いします。」
年頃の少年はこういうとき、恥ずかしがったり斜に構えたり、そうでなければ素っ頓狂に場違いなおふざけをしてしまうものだが明石はそのどれでもなく極めて自然に、友好的に新しい世界へ入ってのけた。
「それじゃ、明石君、一番前のこの席に座ってねv」
「せんせえ、俺がすわってるんスけど!!」
ショックを受けたように叫ぶ男子生徒に、クラス全体がどっと沸きかえった。厳格な先生すらメロメロにしてしまう明石の登場に一人だけ眉一つ動かさない生徒がいた。神崎竜星である。竜星は相変わらず文庫本を読み続ける振りをして明石を観察していた。心で思う事は、クラスの誰もが突っ込まなかったこと。
どうでもいいが…このクラス転校生多くねえ?
明石が後ろの廊下側の席に座る鈴音に気付いて、穏やかな微笑みを送った。鈴音はちょっとだけ赤くなって軽く会釈した。竜星はその柳のような眉根に皺を寄せた。

「それにしてもウチのクラスにあんなハイレベルなイケメンが二人なんてラッキーだわ。」
「やっぱオトコは顔でしょー。」
ねえーと顔を見合わせ浮かれる女性陣に、男性陣は渋い顔だ。
「けっ、なんでぇ、イケメンイケメンって。魔法だけならオレだって使えらあ。」
「放っとけって。大体黒板消し動かせる程度じゃ敵わねえって。」
最年少一級魔道士だぞ、と宥める友人、大宮に北本はふんっと鼻を鳴らす。
「なんだお前も神崎のファンかよ。」
「そーじゃねえよ。そーゆー切り返しウザいぞ。」
うざいとまで言われたら黙るしかない。その代わり北本はやり場のない苛立ちを杖に込め、今度は竜星と明石どちらが好みかで盛り上がっている女子たちに向けた。風もないのに女生徒達の青いスカートが花開く。短い悲鳴。
「北本てめー何しやがるっ、小学生かおんどりゃあっ!!」
「ぎゃっはっは、行田はイチゴパンツー。小学生はおめーだ♪」
「なにをーっ?!!」
北本に向かって拳を振り上げる行田の手首をやんわり、しかし強く掴む者がいた。明石だ。
「行田さん、女の子が暴力振るうのは良くない。それにそんな乱暴な喋り方しちゃダメだ。」
行田はかああっと頬を紅潮させ、打って変ってぶつぶつと繰り返す。
「だって…だって…」
「なあーにが、だって…だって…だ。」
行田を真似る北本に再び暴れ出す行田。明石は行田を抑えながら、静かに北本に指を向けた。
「君、そんなにスカートが好きなら、こうしてあげよう。」
明石の指から放たれる赤い閃光。次の瞬間、北本は青いスカートから大して美しくない二本の脚をにょきっとはみ出させていた。相当破廉恥な格好であったという。
「ぎゃはははは!!」
腹を抱えて笑いだす行田。と大宮。
「大宮、てめー笑うなっ!!」
ブルータスに刺される瞬間のカエサルの気分を味わいながら一生懸命毛ガニのよーな生足を隠そうとする北本。最終的に北本はちくしょおおお、と叫びながら更衣室にジャージを取りに行った。
「明石君、すてきーv」
「かっこいいーv」
女子たちの黄色い声援に軽く右手を上げる事で明石は応えた。そして明石は周りに気付かれないようにそっとあたりを見回す。しかし、目標の少女は教室にはいなかった。

「気に食わねえな…」
竜星は文庫本に隠れるようにして呟いた。
「何よ、やきもち?ナルシストだもんねーあんた。」
竜星の呟きを聞きつけた鈴音がからかうように言った。竜星はちっと舌打ちして、
「あいつの発する気が、気にくわねーんだよ。おめーみてーな凡人には判らねえだろうがな。」
鈴音はお約束通り、怒った。
「事あるごとにバカだの凡人だのって。」
竜星は文庫本を左手で閉じて気だるそうに頬杖を突く。
「お前も、明石が来て浮ついてんだろ。あの女子達みたいに。単細胞だもんな。」
「はあ?何言ってんのあんた。」
竜星の思いがけない一言に鈴音は困惑の表情を見せる。その意図するところが見えなくて気色の悪ささえ覚えたが、竜星のどこか虚ろ気な横顔に心臓の奥を掴まれたような奇妙な痛みを感じた。ずぎゅんと。ずぎゅんと?
「いやあのっ…私はあーゆー女の子なら誰にでも愛想良くするような人は…あんたも似たようなもんか…そうじゃなくて、とにかく私は興味ないから。」
な、なんで焦ってるの私浮気の言い訳してるみたいなでも浮気も何も竜星と私はただの腐れ縁だしそもそもなんだって私は…
考えれば考えるほど思考のるつぼに嵌っていく。竜星が落とした急降下爆撃発言と、それに感じた心の痛みと。鈴音は気まずそうに竜星を見上げた。竜星は…
なんと文庫本『メイドのお仕事』を開いて読書を再開していた。微かな笑みすら浮かべている。気色悪い。竜星が鈴音をみやって思い切り嫌そうな顔をして見せた。
「何一人でぶつくさ言いながら百面相してんだよ気色悪い。」
2バイト程度の脳みそのくせに故障すんなよなー、との暴言がオマケとして付いてきた。鈴音はわなわなと拳を震わせ、『鈴パンチ』を繰り出した。
「気色悪いのはお前だーっ!!」
竜星は文庫本から片時も目を離さず鈴パンチをひょいひょいと避けていく。

その様子を明石は遠く教壇前の自分の席から見ていた。
あの少年は確か。なんてことだ。あの娘の傍に神崎竜星が付いていたなんて。どういう関係性かは知らないが、あまり好都合とは言い難い事態であるのは確かだ。でも。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず…か。」
本当は楽して手に入れられる方が良いに決まっている。あの行田とか言う女子みたいに。しかし行田程度じゃ僕は満たされない。弱り切ったこの僕は。
「行田さん、役に立ってもらう…」
明石は黒い筆箱からこれまた漆黒の万年筆を取り出した。

鈴音にとってこの日も平穏無事に終わった。三時限目あたりで行田さんが青い顔で気持ち悪い、と言って陽炎のようにふらふらと早退してしまったことを除けば。今夜は任務もなさそうだし。任務で鈴音は思い出した。
「ほんっとに、あいつムカつく!!」
何が百面相だ。何が2バイトだ。一瞬のときめき損じゃないの!家帰ってもあいつと顔合わせなきゃなんないなんて、考えるだけでもお腹の中が煮えくりかえる!今日は夕飯抜きだ。私とホーリーにだけふわとろオムライス作ってやる!竜星なんか一人侘びしく焼き海苔でも貪ってればいいんだ。そこで鈴音ははたと思いだす。どうして私、こんなに怒ってるんだろ。当たり前だ、あんなヒドイ事日常的にポンポン言われてれば誰だって。

「私と竜星って、なんなんだろ。」
名目上は師弟らしいけど、この1ヶ月魔法は殆ど習っていない。ご飯作って掃除して、皮肉と暴言もらって、任務についていって、またひどい目に遭って…

こんな調子で、鈴音はとりとめなく考え事をしていたので、革靴と一緒に触れるまでそれの存在に気がつかなかった。かさり、と枯れ葉みたいに乾いた音がした。鈴音は革靴は『8番鬼塚鈴音』のスペースに戻して、微かな音の主だけ手に取った。それは、薄青い中性的な可愛らしさの封筒だった。目立たないように勿忘草がプリントしてある。表に『鬼塚鈴音様』と丁寧な字で書いてある。引っ繰り返して裏を見ると、同じ丁寧な字で差出人の名前が書いてあった。明石司。まさか。
 この時点で鈴音は手紙の内容の大方の予想がついた。ただ、今日会ったばかりの転校生からの手紙はあまりに突飛で、鈴音は手の中のそれを見つめたまましばらく立ち尽くしていた。
soul1
soul2

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Posted at 09:55 | マダム沌夕 | COM(2) | TB(0) |
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