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2010.03.05

マジラバ第五話 潜入!百合の園中編

「キモッ。…キモッ!」
想像していたよりもずっと地味なメイド服に身を包み、すっかり黒ずんだモップを手にして教室の外から一連の出来事を覗いていた鈴音は、思わず二回も呟いた。
あいつ絶対、少しは楽しんでやがる。女の格好して女の子にあんなことをするなんて、
「真性の変態だわ。」
しかし、ちょっと魔法で髪長くして軽くお化粧して、あとは肉マンと綺麗な声になるのど飴(不二里製薬という、鈴音は聞いたことの無い製薬会社の名前が記されていた)舐めるだけであそこまで見事に女の子歴十六年の集団に溶け込んじゃうとは、竜星もあれでなかなか凄いのかもしれない…。
そんなことを考えていたら、厨房からコックさんの怒号が飛んできた。
「何やってんだ新入り、早く買い出し行ってこい!!」
洗濯場からもメイド長の嫌味が飛んできた。
「トイレ掃除は終わったの、グズな娘だよ全く。」
慌てて鈴音は走り出す。
くそーっ、片や優雅にお嬢様で片やあくせく雑用かよ!しかもお嬢様の方が男なんだから、何て言うか、何て言うか、もう!!

田原葵は人生二度目の恋をした。相手は出逢って三時間にも満たない転校生の少女だ。その方は美しく強く、そして賢い弱冠十六にして女王のような気品を備えた人。彼女に助けられた瞬間、葵はすっかり魂を奪われてしまった。
私は神の花嫁。この世の人である誰かに心奪われるなんてあってはならないことだけど…
『お止めなさいな。せっかくの可愛らしいお顔が、汚い言葉で台無しよ?ね?』
目蓋を閉じれば、浮かんでくるのは荒野に一輪だけ咲いた白百合のように清く麗しいその笑顔。聞こえてくるのは秘密の花園で唄うナイチンゲールのように甘く深いその音色。あんなお美しい方とこれから一緒に学生生活を送ることが出来るなんて、
「朝川様の御恵みだわ…」
「…原さん。田原さん。ちょっと、田原さん!!」
廊下のど真ん中で瞑想と妄想に耽る葵を院長は五回くらいも呼ばなければならなかった。葵はやっとの事で我に返る。
「何でしょうか、院長様。」
院長ははああーと長い溜め息を吐いて、それでも彼女で無くてはならない用件を伝えることにした。
「貴女に頼まなければならないことがあります。実は…」
「え…」
葵の顔全体に、殆んど泣き出すんじゃないかと言うほどに強い喜びと興奮が広がった。

「へっくしゅん!へーくしゅん!!」
神崎竜星…今は神崎竜子と名乗っている女生徒は誰も見ていないのを良いことにド派手に鼻水をとっ散らかしてくしゃみを連発した。それからズズズっと鼻を啜る。
夕方になってから急に鼻がむずむずしてきやがった。花粉でも飛んでるのか。
竜星は一人きりの廊下をゆっくりと歩き回る。思い浮かべるのはクラスメートたちの顔ぶれ。と言ってもその中の誰かに心奪われた訳ではない。顎に手を当てるお定まりの探偵ポーズで考え込む。

女生徒たちを見ても辛うじて不自然と言える点は只一つ。揃いも揃って美少女揃いと言うことだ。有り得ないことじゃない。最近じゃどこの少女も可愛くしようと努めているから、俄然全体的なレベルは高くなる。特に咎め立てするようなことではない…気もするが。くそ、材料が足りない。考えを纏めるには。比久尼は「何がおかしいのか」も言わなかったから。

同級生か先輩かはわからないが、女生徒が二人、きゃっきゃきゃっきゃしながら廊下の向こうから歩いてきた。竜星はさりげない様子で歩調を緩める。

「ねえ、この学院の悪魔の話知ってる?」
「ただの噂でしょ、それ…」
「それが噂じゃないかもなんだってば。悪魔は定期的に、この学院からその時一番美しい娘から拐ってくんだって。近頃生徒の数が減ってきてると思わない?」
「思わない。そんなに減ってるんならあたしたちの友達が誰か消えててもおかしくないじゃん。ウチらの中で誰かいなくなった奴いる?」
「う…い、いないけど…」
「それが証拠よ。あんた、ホラー小説の読みすぎ。」

相方にぴしゃりと断言されて、もう片方は不満そうに唇を尖らせている。しかし三秒後には、話題はもう今日の夕飯についてに変わっていた。飽きっぽい奴等だ、三十秒以上同じ話を続ける頭がないのかノータリンどもが。
でも面白いことを聞いた。竜星はほくそ笑む。
その噂がこの任務と関係あるのか無いのかわからないが、調べてみる価値はありそうだ。そういう噂が生徒たちの間で囁かれるということは、少なくともそれに生徒は関わっていないと言うことだ。学校側、あるいは幸真学会全体で行われていて生徒は巻き込まれているだけ…

竜星の思考は身体の中心を思い切り揺るがされることに依ってストップした。
「りゅーぅこさんっ!」
がっくんっ、後ろから飛び付かれてバランスが崩れる。振り向くと、さっきは焼きそばパンと一緒に床に転がって怯えていた小柄な少女が満面の咲き乱れるような笑顔でにっこにっこしていた。
「あ、貴女は確か、田原さん…」
何だよこいついきなり気持ちわりーなーと言いたい気持ちは演技の風呂敷に包み込み、あらあらうふふと笑ってみせた。葵は竜星の気持ちに全く気付かず女友達に向けるそれとは少々逸脱気味のキラキラお目々で竜星を見つめる。
「竜子さん、私と同じ部屋なんですってね、嬉しいわ、ということで改めて宜しく。」
「よ、宜しく…」
「とゆーことで、今からお部屋に案内してあげる!」
葵は一方的に断言すると、そのまま竜星の手を引いて走り出した。その速きこと疾風の如し、竜星の身体が宙に浮く。
何という有り難迷惑の極み、そして見た目によらずすげえ力だこの女。

「はい、今日また新しい少女が入りましたので。近日中に献上出来ますかと。それでは。」
書類とアンティークに囲まれた院長室の机で、黒衣の院長は黒電話の受話器をちん、と置いた。それから軽く、息を吐く。
正直言って、こんなことするのは気が進まない。偽りの神に用意された学院とは言え、ここは私の城だ。そして生徒たちは私のものだ。私が夢を叶えた証。私が夢を維持している証。しかし同時に、そしてやはり、朝川の手引きが無ければこの城を手中に収めることは出来なかったし、院長として君臨し続けることも出来なかっただろう。乙女たちを差し出すのは成功税。仕方ない。
こんこんと扉をノックする音がして、みすぼらしいメイドの少女が大分草臥れた様子で入ってきた。確か、今日転入してきた女生徒と一緒に入ってきた新入りの。
「失礼…しまあす…お掃除…よろしいですか…」
片言。大分参ってると見える。でも、ホントに神が居るとしたらなんて不公平な。あの女生徒は逃れられず、この娘は救われる。残酷な、世界。

焼き立ての丸パンにパンプキンポタージュ、新鮮野菜のサラダに魚介のジュレ、ラムのロースト。これだけ豪華で、別に転入生歓迎会ということではないらしい。親が金持ちだとこーゆーとき、得するんだな。
クラスメートたちと戴く夕食の席で、竜星は完璧なテーブルマナーを演じながら思う。音を立てずに薄桃色のラムを切る、優雅な手元と口元に生徒たちは釘付けだった。女は視線で美しくなる、女じゃないけど。
しかし料理の豪華さと味は必ずしも比例しないのだ。そしてさらに、味わいを邪魔する一番の原因は…
「りゅーこさん!ナイフの持ち方もお綺麗なのね!英国女王も真っ青だわっ!」
りゅーこさんりゅーこさんりゅーこさん。さっきからずっとこの調子だ。よくもまあ飽きないもんだ。竜星はなるべく顔に出さないように心の中だけで思う。元来積極的な女は好きじゃない。鬱陶しい。悪いが苛められるのも解る気がする。肯定はしないが。そんなことを思いながらもニコニコ笑顔を崩さないでいる硝子の仮面な竜星だったが、巡り巡る世の中のバランスを取るが如く先に怒りを顕にした少女が一人。がつん、皿をフォークでぶち刺す音が響いて食卓に静寂が訪れた。
「煩い、田原、これ以上喋ったら殺す。」
他でもない、小泉麗子であった。その地獄の焔のような眼差しに百戦錬磨の最年少一級魔導士ですら慄いたという。
やっぱモノホンの女って怖え。

「あの院長が怪しい。」
朝から晩まで掃除に洗濯と働きづめで、しかもコックの『新入りに食わせるメシは無い』の一言で生徒たちの食べる絢爛なディナーの匂いに背を向けて、宛がわれた粗末な寝室へと足を向ける鈴音だったが、空腹を紛らすのに考えるのはこの学院で起こっている異変の黒幕についてだ。もっとも大した情報も持たずに今日ここに来たばかりの鈴音には、何が正常で何が異常なのかもよくわからないのだが。それでも、掃除をしようと訪れた院長室で扉越しに聞こえてきた『少女を献上』というあからさますぎるフレーズと、鈴音に気付いて慌てて電話を切る不審すぎる挙動は、十分に竜星に伝える価値のある情報ではないだろうか。まさに、『家政婦は見た』。
 しかし、屋根裏部屋の疵と埃で原型がわからないドアの前で見かけてしまった階段の下の廊下、可愛い女の子をチンパンジーの親子みたいに全身に巻きつけて歩く竜星をみると、その気もすーっと失せていくのがわかった。
 別に、あいつの任務が失敗したって私には何の関係もないし。どうでもいいことだったわ。
 鈴音は女の子を必死で振り切ろうとする竜星を無視し、独り寂しくこの学園でみたものの中で一番おんぼろなドアを軋らせ、その奥へと消えていくのであった。

「りゅーこさん!一緒にお風呂に入りましょー!!」
葵は竜星の肩に頭を載せて、べたーんと甘える。
「今日は体調が悪いから…」
誤魔化しながらすたすたと逃げようとする、竜星。ずるずると引き摺られる、葵。お上品なお嬢キャラを演じているため無碍に振り払う事も出来ずにそのまま部屋まで来てしまった。竜星は制服も脱がずに(というか脱げないのだが)ベッドの上に上がる。
「田原さん、私もう寝ますわね、お休みなさ…ふぐう!」
あまりのことにお嬢の仮面が脱げ落ちた。轢き潰された小動物のような声で竜星は呻いた。腹に乗っかかられた衝撃が去ってから竜星は葵を見上げる。察しの通り、葵は一緒にベッドに上がってきてしまったのだ。
「てめ、じゃなくて田原さん、何なさるの、神の花嫁たるレディはそんなはしたないことしなくってよ、お退きになって…」
「ふっふっふ、りゅーこさ~ん、お部屋に入ってしまったからにはもう誰にも邪魔はさせないわっ!」
葵の表情は照明を点けていない薄暗い部屋でも完全に暴走しきった人のそれであるとわかった。
「いや、だめよ、こんなの見つかったら院長様が何て仰るかっ」
「院長様なんてどうでもいいのっ、二人の間に愛があれば!さありゅうこさん、もう逃げられなくってよ、私を好きになさって!!」
いやいやいや!院長に見つかって追い出されちゃまずいんだってば、この一日中女のカッコしてお嬢言葉連発してきた俺の苦労無駄にする気か、それにお前は愛してるかもしれないが俺は愛してねえっ、あっでも据え膳食わぬは何とやらというし、確かに俺は愛なんてなくてもくれるものなら拒まない主義だが…
)という風に色々考えた揚句、竜星はぱっと思いつく。そこまで言うんなら。
竜星は両手で葵の肩をやんわりと掴む。自分でし掛けた癖にびくっと震えて動きを止める葵。
「そうね田原さん。楽しくしましょうか」
「え、あ、あのっ…」
竜子は可憐で気品あふれる中に、粗野ともいえるほどの鋭さが潜む美しい顔立ちに、背徳的なまでの色気を湛えて今度は葵を見下ろした。長い黒髪が葵の頬に掛る。形勢逆転。
「あら、田原さんが好きにしてと仰ったのに、怖がってらっしゃるのかしら。可愛いお方」
あくまでも丁寧な口調は崩さずに、のどあめの効いている範囲内でだが少しだけハスキーな声で語りかける。
「大丈夫、苦しめるようなマネはしなくってよ。ただ、私の知りたい事に答えてくださるなら」
「お知りになりたい、こと…?」
竜子は葵の頬に手を触れる。
「この学園で、田原さんのお友達に何か変わった事とかないかしら?」
「とくに、なにも…」
「院長様でも良いわよ。生徒が立ち入りを許されていないとこもあったわね。」
最早葵は、竜子に魅せられて陶酔状態に陥っていた。今や竜子の言う事なら何でも聞いてしまう、ただのお人形だ。竜星の狙いはそこだった。自分に好意を抱いている葵なら落ちやすいかもしれない。そう思ったのだった。決して、やましい気持ちが魂胆にあったわけではない。今は任務中なのだから。
しかし、はたから見たらやっぱりどうしたって怪しい光景だ。二人の少女を冷たい目で見降ろしていたメイド姿の新たな少女が一人…
ごわーん!!もの凄い音がして葵は竜星の腕の中に倒れこんだ。見下ろすと葵は頭にサーティーワンのキングサイズくらいのタンコブを造って気を失っていた。いきなり、なんだってんだ。竜星は下手人を確認しようと顔を上げた。そして二回目のごわーん。今度はそれが恐ろしい衝撃とともに脳天を揺らした。痛みを堪えて再び顔を上げると、ベッドサイドには全身から黒い炎を揺らめかせて、モップを握ったメイド姿の鈴音が仁王立ちしていた。
「あにすんだ痛えじゃねーかよ!」
礼の代わりに飛び出した文句に鈴音は叫んだ。
「最っ低、この節操無しケダモノド変態!!いくらエロ小説フリークだって暴走するのは妄想の中だけにしてよ!」
「何勘違いしてやがんだこの単細胞、俺は情報を集めようと…」
「どーだかね。一日見てたけどあんたけっこーこのシチュエーション気に入ってるんじゃないの?」
「お前は自分の師匠を何だと…」
「あんたみたいな変態師匠だなんて思ったことないもん。」
二人は暫し睨みあった。やがて竜星はベッドから降りた。
「どこいくのよ。」
竜星は素っ気なく答えた。
「見回りだ。お前なんかと口げんかしてる暇はないんでな。こんなことしてる間に情報や手がかりが逃げちまう。」
竜星は人気のない真夜中の廊下へと出て行った。
待って、そのことだけど竜星、私さっき院長室で…なあーんて言うわきゃねーだろ
「バカ竜星!」
部屋のドアが閉まると同時に鈴音は叫んだ。

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Posted at 17:42 | マダム沌夕 | COM(2) | TB(0) |
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