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2010.01.24

マジラバ第五話 潜入!百合の園前編

拝啓お母さん。空は青く澄み渡り、芒はいよいよ銀色に煌めいて秋の深まりを感じさせます。朝夕冷え込みが酷くなってくる季節ですが、風邪など引いてはいませんか?それとも素敵な殿方引っ掛けまくって西へ東へロマンス旅行でしょうか?鈴音は相変わらず元気にこきつかわれてます。まるで灰被り姫です。助けてくれる王子様も一向に現れる気配が無いのが益々悲しいです。

「りゅーせーい!その胡桃タルトは俺んだーっ!!」
どたたたと廊下を走り回る音がする。続いてガラガラピシャーンという謎の音、そしてホーリーの断末魔。鈴音は羽ペンをぎぅぅと握り締め、さらさらと書き加える。

貴女が手塩に掛けて育てたのであろう我が師匠、竜星は戦闘以外じゃまるで子供です。意味もなく意地悪だし、食い意地張ってるし、それでいて何の感想も言わないし、バカに偉そうだし、流石貴女が教育しただけの事はあります。

「げほっ、ごほっ…りゅーせーい…」
「ほー、まだ動けるのか。往生際の悪い猫だな。」
「猫叉だっつの!何のこれしきだ、へっぽこ魔導士!タルト返せ!」

それはそうと、先日は結構な贈り物ありがとうございました。一体あれは何のつもりでしょうか?私と竜星に何を期待してらっしゃるのか皆目見当がつきません。あのようなワイセツなもの、大量に送られたところで焼き芋の燃料にするしか使い道がございませんし、ムダに物を燃やすのはCO2排出に繋がります。引いては地球温暖化を促進する事に繋がります。何卒、次はもっとマシな物を…

「あーっ、マジで喰いやがった!こうなりゃタルトごとお前の喉笛を噛み砕いてやる…」
「やってみろよ、いっつもお前は口ばっかりだ。どうしたんだ、俺を噛み殺すんだろ、仔猫ちゃん。」
「おめーに仔猫ちゃん呼ばわりされる筋合いねええ!寒気がする!」
どたたっ、ばたんと何かが落ちる音がした。ホーリーが黄色い悲鳴を挙げる。しかもちょうど鈴音の部屋のドアの前だ。鈴音はついに爆発した。

「ホーリー煩い、また作ってあげるから部屋散らかすのはやめて…」
鈴音が言いかけたその時、部屋のドアが開いて竜星が倒れ込んできた。被っているのは段ボール。そこから覗く赤や黒や紫の扇情的な布地。鈴音の手の中で羽ペンがメキメキと音を立てて折れた。

「事故だっつってんだろ。」
「ふん、どうだか。」
「実際見てただろ。それと師匠を殴るな。しかもテーブルで。」
タコ殴りにされた竜星がぶすぶすと燻っている。『いや~失敬失敬☆』などと笑う赤い箒に乗った宅急便のお兄さんにちょうど書き上げた手紙を託し(この世界の宅急便は相手の居場所が解らなくても大抵見つけ出して送り届けてくれるらしい、鈴音はそれが大変気に入っている)、鈴音は竜星と出逢ってから何度目かの喧嘩と相成った。

宅急便のお兄さんが竜星の頭に落っことしたものは、今はどこにいるか判らない琴音の贈り物だった。内容は前回と同じセクシー下着の類いだ。大量のパンツの中に、二三枚だけ可愛らしいワンピースが入っている。それと何故か、クリーム色のフォーマルなドレスが一枚。下着と上着のバランスが取れてないってば、どっちも必要枚数は同じくらいなのに。

「相変わらず仲良さそうなことだな。」
前にも聞いたような台詞が鏡の中から聞こえてきた。
「比久尼さん!今日は前振り(鏡のキラキラ)無しで突然登場なんですね!」
「登場三回目ともなると流石にしつこいかと思ってな。てなことで聖ミレニアム女学院に潜入して様子探ってこい。」
任務内容も前振り無しでズバッと告げられた。
「聖ミレニアムって、あの全寮制女子高の?」
「超お嬢さま学校の?」
竜星とホーリーが息ぴったりのタイミングで連続して質問した。鈴音は思う。この二人?、食べ物が絡まなけりゃ漫才コンビ並みに仲が良いのに。 比久尼は頷く。
「そうだ。200X眼鏡ももう掛けることが出来なくなったと言うのに未だにミレニアム名乗ってるあの時代錯誤女子高だ。新興宗教幸福真理学会の教理に基づいた教育をしている。まあ、信教の自由が法律で定められている限り何をどう信じようとその人の勝手ではあるわけだが、最近どうにも様子がおかしくてな。『神の花嫁』たる女生徒たちを使って何やら良くないことを企んでいるらしい…それで今回お前に転校生として潜入してもらって、悪いことが起こっていたら止めるようにしたいのだ。」
比久尼は長い説明を締めくくった。そこで鈴音はあれ?と首をかしげる。
「この中で女の子、私しかいないじゃないですか。私スパイとか無理です…って…」
まさか。鈴音の思い付いたとんでもない仮説を立証するかのように、比久尼の視線は真っ直ぐに竜星に向いていた。竜星はその視線を受け止め、口角を引きつらせた。
「冗談ですよね?俺女の格好して学生生活とか無理です。てか嫌です。」
比久尼はにたぁ、と笑った。
「自信を持て、お前くらいの美貌なら女子高生でも充分通用する。ああ体育の時間を心配してるのか、安心しろ体操着はジャージ着用OKだしプールは教義に反するとかでそもそも存在していない。ブルマやらスク水やらを着る必要は全くない。良かったな。」
「当たり前ですよ、俺を変態にするつもりですか。」
「これ以上、を抜かしたぜ。」
余計な突っ込みを押さえきれなかったホーリーは次の瞬間天から降ってきた金だらいに潰されてシート状になった。比久尼は腹を抱えて笑いながら言った。
「そういうことだ、しっかりヤれよ。制服を送る、サイズはあってる筈だ。鈴音は…使用人のバイトとして潜り込むが良い。竜星を頼んだぞ。」
鏡の面が砂嵐を映し出した。回りながら飛び出してきたのはグレーのジャンパースカート。そしてブラウス。
「これを、あんたが着るわけ?それでもってアーメンとか言うわけ?」
鈴音はまだくすくす笑いながら竜星を涙目で見上げた。竜星はミレニアムの制服を抱えて鈴音を睨み付け、
「お前があのセクシー下着着るよりはマシなはずだ。」
と、よくわからない切り返し方をしてきた。
「似合う事前提。やっぱあんた只ものじゃないわ」
筋金入りの変態的な意味で。毒つく鈴音に、竜星は細い棒状の何かを投げつけた。慌てて右手のひらを出し、わたわたとキャッチする鈴音。
「ちょっと…」
モノ投げつけること無いでしょ?!という鈴音の叫びはそれが何か認識した瞬間飲み込まれた。アイスキャンデーの棒かと思ったそれの先端には、小さな五芒星が付いている。これは…
「もしかして…」
「もしかしなくたってそれだよ。お遊戯に使うみたいな基本魔法も満足に理解できないお前でも実際にこれを使えばちったあマシになる筈だ。」
竜星はゾンザイな口調で言い放った。鈴音は手の中の棒をまじまじと見つめた。
これはまさしく、魔法の杖。実は自分が魔女だと解ったあの夜から、密かに欲しかったものだ。ただ自分もいい年なので、『先っちょにお星さまのついた杖を振りまわしてきらきら火花を散らしてみたぁい☆』なんて幼稚な願望を竜星なんかには素直に言いだせなかっただけなのである。しかし、なんというさりげなく何気なく、呆気ない運命の瞬間。人生で初めて魔法の杖、それも玩具屋で売ってるぴろりろーんとか鳴る電気仕掛けの偽物じゃなくて、実力次第で変身や移動も出来るようになる、正真正銘の本物を手にしているというのに。鈴音は試しに振ってみた。ぱちぱち、ちょうど線香花火のようなオレンジ色の火花が数個、星の部分から飛び出した。まだ、このくらいしか出来ない。でも、これからはこれを使って、本当に魔法少女?デビューだ。

聖ミレニアム女学院の磨き上げられた栗材の床板とやたら真っ白な壁で挟まれた廊下、三歩ほど前を、髪をひっつめてシニョンにした院長先生がつかつかと歩く。
「我が校は幸福真理学会の偉大なる主、朝川霊光のお膝元で選ばれし乙女たちを神の花嫁として教育するべく設立された女子高等学校です。全て信者の方々のお布施に依って成り立っています。ですが、お布施の多寡で生徒の扱いを決めることはございません。教義に従い平等に、公平に、清く慎ましやかで心麗しい女性を育成しています。」
説明している間に校庭に出た。後光のように眩しい光がさあっと照らす。そこには、全員きっちり同じ制服を着た少女たちが、不自然なまでの行儀良さで整列していた。新しい仲間の登場に少女たちは沸きかけるが、院長がそれを制止する。
「今日から皆さんと共に主の教えを学ぶ、神崎竜子さんです。」
モデルのようにすらりと高い身長。肩まである流れるように真っ直ぐな黒髪。眼鏡によりさらに際立つ端正な顔立ち。高貴なまでに美しい女子生徒が他を見下ろし立っていた。
「では竜子さん、早速授業ですよ。皆さん何してるの、早く教室に行きなさい。」
院長先生が言い終わると同時に、校舎裏手にある礼拝堂から清楚で荘厳な鐘の音が響いてきた。生徒たちは興奮を隠しきれないきらきらした瞳で、または異邦人を見るような牽制的な瞳で竜子を一瞥しながら校舎に戻っていった。竜子はそのあとを急ぐでもなく従いていった。

「我らが教祖、朝川霊光は宇宙全体の最高神であるブッスト・アラーの転生体であり、ブッスト・アラーの聖霊によって選ばれた我々は…」
神経質そうな中年の先生が、特に神々しくもない肥った男の肖像を指し示しながら電波な講義を延々とぶちあげる途中、竜子こと神崎竜星は別の事を考えていた。勿論、本業である任務に関することだ。

院長に校内を案内してもらった時には特に変わったところは無かった。話に違わずセレブでハイソなお嬢さま学校ではあるが。あと廊下を三メートル歩くごとにあのおっさんの絵が飾ってあるのはかなりげんなりだが。…一ヶ所だけ、きな臭い場所があった。保健室の近く、校舎一階の一番奥の扉。『立ち入り禁止』とプリントの裏に赤字で書かれた粗末な注意書きが貼ってある。普通に考えて扉の向こうは外の筈だが、何か問題でもあるのだろうか?院長は『スズメバチがいる』とか言ってたが…今夜辺り調べてみるか…
「竜子さん!ぼーっとしない!」
先生が居丈高に言った。さらに意地悪く続ける。
「転校生だからって特別扱いしてもらえると思ってるな?朝川霊光がブッスト・アラーだったころ、彼を裏切って殺した十三人の弟子の名前を全員答えなさい。うひひ…」
先生は絶対に答えられないだろうと踏んで、気味の悪い嗜虐の笑みを浮かべている。天才魔導士の俺様をなめんな。竜星はすっと立ち上がり、詠うようにすらすら答えた。
「マダオ、コボネ、ヤダ、タンコブ、ヤンデレ、ヘドロ、ダサイ、バルトサンゴク、トワリ、シーマン、フィロポンです。因みに先生、十三人ではなくて十二人です。」
生徒たちからくすくす笑いがあがる。先生の顔が茹で蛸並みに真っ赤になった。あんなちゃっちい教典くらい一日で覚えられる、ざまあみやがれ。

竜星は憎たらしい教師を見返してちょっと得意気だが、クールな反撃の代償は少々高くついた。作り物めいているほどの美少女、物憂げな雰囲気。余程信心深い三年生でも答えられるかどうかの質問に軽く答えてしまった賢さ。…一言で説明すると、目立ってしまったのだ、凄く。諜報活動に置いて不必要に目立つことは避けなければならない事態だ、隠密行動に支障を来す。竜星としては、『骨の髄まで朝川命!な父親が一般ピープルの妻の反対を押しきって少ない年収の八割削り取って入学させた娘』という設定であるから、あれくらい答えられた方が良いだろうと思ってそうした事ではあるのだが。
休憩時間、竜星はクラスの少女たちに取り囲まれてしまった。
「竜子さん、すごおい!」
「お綺麗なだけじゃなくてとっても優秀で信心深いのね、うっとりしちゃう!」
「あ、ありがとう…」
しまった。女って生き物のファンデルワールス力をついぞ忘れていた。あいつのお陰でここ一ヶ月の間普通の女と会話する機会が減ってたから…トイレにも行けやしねえ、寧ろ絶対、個室にまでついて来るぞこいつら。
まあ、生徒たちの警戒心を取り除けたのは望ましいことではある。その時、少女たちの輪の向こう側で小柄な少女が教室に入ってきたのが彼女の声と物音で知れた。
「麗子さん、焼そばパン買って参りました…っきゃ!」
ジャストタイミングで人垣が割れて、パンを数個床にぶちまけて倒れ込む女子の姿が見えた。転ぶような障害物は何もない、そこに朝川霊光の聖霊でも昼寝しているのなら別だが。波打つロングヘアーの気の強そうな少女がつかつかと小柄な少女に歩み寄る。
「何やってんのよ田原、ほんっとドジね。しかもこれ、私が頼んだものと違うじゃない。」
「う、売り切れだったので…」
「ドジの癖に生意気に言い訳?まあ良いわ、そろそろ宅配のトラックが来る頃よ。もう一度行って買ってきて。」
「そんなっ、もう授業が始まってしまいます。」
他の生徒たちは笑って見ていたり、そうでない子は気にしつつも知らん振りしているのが手に取るように見えた。イメージ通りの女の園がそこにあった。あー、ヤな感じ。さばけたあいつだったら絶対そんな事しない、誰かをいたぶるのも笑って見物することも、オドオドと従うことも、無視することだって。
そう思ったら、身体が先に動いていた。
「口答えするんじゃないわよ、田原の癖に!あんたは黙って従ってりゃ良いの…んぐ。」
麗子の口は、後ろから回された手でやんわりと塞がれた。目線だけ横にずらして、ちょっとだけひんやりする手の主を見る。そこには竜子とか言う何だかいけ好かない転校生がたおやかに微笑んでいた。手はすぐに外された。
「な、何よ。」
メープルシロップのように琥珀色をした瞳に見詰められて、何故か鼓動が高まったのは内緒の話だ。竜子は麗子を見据えたまま、にっこりと言った。
「お止めなさいな。…折角の可愛らしいお顔が、汚い言葉で台無しよ?」
ね?と竜子は、ややハスキーな声で、麗子の耳元に囁く。麗子は身体の底から擽ったくなって、真っ赤になって竜子を突き離す。
「余計なお世話よっ。」

「授業始めるぞー。」
遠くから響く鐘の音と、場違いな間延びした呼び声がこの妙ちきりんな空気を破って、数学教師が入ってきた。

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Posted at 01:20 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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