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2009.09.30

マジラバ第二話 初めての共同作業?中編

 美しい死体のような十六夜の月をスポットライトに、園長室のの屋上を舞台に、二人の魔法使いが対峙する。一人は白いワイシャツに腰に巻き付けたブレザーを風にはためかせ、色濃い琥珀のような瞳に微量の憐憫を込めて相手を映していた。もう一人は羽根のようなデザインの真っ赤なアイマスク、真っ赤な編み上げグローブ、真っ赤な編み上げブーツ、真っ赤なボディスーツを身にまとった紫の髪の女であった。角膜が腐り落ちそうなほど鮮やかな色彩の彼女は、本日の敵の姿を認めると
「ウフV」
と微笑った。竜星は一瞬目ばかりか言語まで奪われてしまったが、
「あー…」
と発生練習をしてから、いつも通りのセリフを棒読みした。
「動物愛護テロリストどりぃむぼっくす、器物損壊人身傷害その他諸々で拘束命令が出ている。抵抗しないなら手荒な真似をせずにすむが…」
「抵抗するに決まってるでしょ。」
どりぃむぼっくすがバカにしたように言った。
「だろうな。」
竜星は左手を前に翳し、握った。その中に細長い何かがぶれながら現れた。それは見る間に形を為し、先端に円で囲まれた六芒星が付いた30センチくらいの棒を形作った。所謂魔法の杖である。どりぃむぼっくすもその扮装に相応しく、調教用の鞭に似た艶のある黒い杖を手に持っていた。どりぃむぼっくすはまた口を開いた。
「さっき言ったこと訂正させてね。」
「?」
「抵抗するんじゃなくて排除するんだった。だってアタシの方が正義だもの!」
どりぃむぼっくすは杖で、バシンと地面を打った。ダン、と竜星の足元が爆発した。立ち上る煙と粉塵。
「…!」
竜星の姿は瞬く間に煙に掻き消された。
「ふん、呆気ないものね。」
どりぃむぼっくすはお約束の台詞を吐いて、竜星を骨まで焼き尽くした筈の赤い炎と黒い煙にくるりと背を向ける。その後ろ姿目掛けて、刃渡り二メートルの銀色背鰭が、地面を伝って音もなくしかも高速ですっと走ってきた。
「きゃっ!」
刃はどりぃむぼっくすの露出した二の腕を掠めた。白い肌に残された一筋の赤。
「これも、お約束だ。」
空中に拡散しつつある粒子群から現れたのは、ぴんぴんしている竜星である。周囲を覆うようにシャボン玉を半分に切ったような薄い透明なドームが作られている。どりぃむぼっくすは目の前にいる少年魔法使いと同じように、にっと微笑んだ。
「シールドか…でも甘い!」
再び杖で、猛獣に対してするのと同じように地面を打った。竜星の立っている地面三メートル四方がガラガラと崩れ落ちる。竜星はとっさに飛び立ち、事なきを得た。
「あんた、やたらと物壊すなよっ…」
竜星は杖を横様に鋭く振った。すると、空気中のある一点を起点として細かな塵芥が集まり、キラキラと煌めきながらリボン様に伸長し、幾つもの尖った刃物の形を作った。刃物はまるで流星のようにどりぃむぼっくすを狙い、流れ落ちる。どりぃむぼっくすは刃の雨に杖を向け、打ち砕く。破片は月光を受けて輝きながら舞い散り、元の創造主に牙を剥いた。竜星は自分の前に銀の六芒星が描かれた見えない板を造り、破片を防いだ。破片の刺さった板はそのまま剣の形を取り、にゅるにゅると伸びていく。間一髪でどりぃむぼっくすは避け、長い剣は屋上に五つ目の穴を開けた。間髪入れずに竜星は杖で空を切る。粒子たちが銀の鎖となって成長しながら、剣を避けて飛び上がったどりぃむぼっくすの左足首にじゃらりと巻き付いた。竜星は杖を後ろに引く。どりぃむぼっくすの身体は鎖に釣られて軽々と空中に舞い上がった。
 鈴音は二人の魔法使いによってボロボロにされた動物園の中を右往左往して身を隠そうとしながらも、頭上で繰り広げられる非現実的な戦闘を釘付けになったように見つめ続けていた。周りには鳳凰だとか、化けキツネだとか、ユニコーンだとか物語の中でしか見たことのないファンタジックな動物たちが檻の中にいて、じっくり見たいのにそうする訳にもいかなくて困る。じっくり見てたら殺されてしまうし、そうでなくても残念ながら目の前の魔法戦争がインパクト強すぎる。
 以前映画で、魔法使いとか超能力者とかがこんな風にド派手にバトルするのを見たことがある。しかし、CGだかSFXだかを駆使して銀幕の向こう側のみで造り上げられる筈の映像が自分と同じ空気の下で、自分から三メートルしか離れていないすぐ傍で、三次元の人間達によって再現されていると言うのは、あまりにも現実離れし過ぎていて脳みそがついていけない。
「鈴音っ、ナイフ飛んできた!ああ何やってんだよお前諸とも死ぬとこだったぞ?!」
それでも鈴音の肩から離れて逃げることはしない、喋る猫の指示にふわふわ従いつつも鈴音は竜星の華やかな闘いっぷりから目を離せずにいた。
竜星は屋上…だった瓦礫の山を強く蹴り、高く高く飛び上がる。どりぃむぼっくすは今や足首だけで逆さに吊られている状態だ。そんな自由の利かない体勢でも彼女は杖を何度も振り回し、鎖を爆発させようとする。確実に動けなくするため、竜星は鎖を杖先から切り離し、杖を真っ直ぐ敵に向けた。しゃりん、と涼やかで高らかな音がして、小さな三日月を幾つか連ねたものが夜空を舞った。支えを失い地に真っ逆さまに落ち行くどりぃむぼっくす。三日月の鎖はどりぃむぼっくす目掛けて飛ぶ途中に分解し、女の四肢に綺麗にはまりこんだ。それから重力か魔法に依るものか、どりぃむぼっくすの身体ごと金属の半輪は地面に落ちて刺さり、一時休戦を迎えた。
「…男。」
さっきは見えていなかった、『法律息子特製ピザ饅』の包み紙の端っこが、どりぃむぼっくすのボディスーツの胸元からはみ出していたので失礼かと思いつつ引っこ抜いてみたら、この通りだったと言うことだ。
「何よエッチ、変態!」
どりぃむぼっくすは叫ぶ。竜星の傍に寄ってきた鈴音は今までの衝撃を忘れられないまま、新しい衝撃を眼下に見下ろして思う。そりゃ自分を女性と称する者が拘束されて胸部を探られるなんて、私が彼女だったら一生神崎君を許せないと思う。けど…
「貴方だって立派な変態だと思います。」
「それにしても今時肉まん胸に詰めて女装するなんて、アナログも良いとこだな。」
「アナログじゃねえよアブノーマルだよ。自国語くらい正しく使えよアホ猫。」
「余計なお世話だムッツリスケベ。」
「ちょっと、何話題変えてんの当人(わたし)を差し置いて!」
どりぃむぼっくすが再び叫んだ。竜星は無駄話を止め、どりぃむぼっくすに杖を向けた。
「どりぃむぼっくす、弁解したいことがあるか?」
どりぃむぼっくすは偽乳を奪われて尚、赤いアイマスクの向こうで色っぽく微笑んだ。
「そこの猫叉、ホーリー君?命の恩人がこんな屈辱を受けてるのにアナタは見てみぬ振りをするって言うの?」
ホーリーは名指しされた事に顔をしかめる。
「はあ、俺にオカマの知り合いなんて居ねえよ。大体なんでアンタ俺の名を…」
言葉の途中でホーリーはそれを飲み込み、眉間に深く皺を寄せる。そしてどりぃむぼっくすのアイマスクと厚化粧で二重に隠された顔をまじまじ見つめた。軈て、呟く。
「もしかして…ハイジ先生か?」
どりぃむぼっくすはニタリと赤い唇を横に広げた。竜星が不思議そうに聞く。
「ハイジ先生?誰だそれ?」
「お前覚えてないのか?一年くらい前、会ったばかりのころ、俺がお前のカップ麺に飛び付いて大火傷した時診てくれた淡島杯路先生だよ!」
「あー、あの時ほっときゃ今頃気儘な独り暮らしだったかもな…」
「ところが俺は生きている、ざまあだな…それは良いとして思い出したか?」
「何となくだが。」
しかし記憶の中に残っている、猫叉なんて動物かどうかもわからない生き物を優しい笑顔でほいほい治療したあの地味な獣医のオジサンと目の前に転がるボンデージルックの変態は、ちょっと結び付けにくい。
ずっと気味の悪い笑顔を浮かべ続けていたどりぃむぼっくすこと淡島杯路は、目を閉じて何かを念じた。厚いファンデーションとこってりした口紅が、紫のウィッグ、アイマスクと一緒にサラサラ剥がれて霧散する。現れたのは黒髪をぴっちり七三に分けた面長で地味な男。紛れもなくあの親切な獣医だった。
「なぜ、アンタがこんなことを…」
驚愕を隠せないホーリーを、淡島は笑った。
「それはねホーリー、私には貫かねばならぬ信念が有るからだよ。」
口調も変わっている。
「この仕事をしていると強く思い知らされるのだが、人間は動物にも魂があるということを忘れている。自分が日々生きる為殺される動物がいることも、人間の都合で苦しめられている動物がいることも、全てに蓋をして見えない振りをしている。彼等の肉片が口に入ればそれで終わりか?自分の手で炭酸ガス室にぶちこむ訳じゃないから罪はないのか?君たちが身近な死から逃げていることが私には耐えられない。死ぬ必要も痛め付けられる理由もない彼等がこうして自由を奪われ、見世物にされ、死にゆくことも。だから私は動く。」
淡島は締めくくった。
三人の間に重苦しい沈黙が訪れる。鈴音は思った。そうだ、この世界に生きているのは人間だけじゃないんだ。それなのに私たちはあまりに当たり前のように命をほふり、好き勝手している。この人が言っていることは正しい。でも…
竜星が頭をがりがり掻いて静寂を破った。
「そんな艶々したボンデージ着た奴に言われたって、説得力ゼロだろ。バッカじゃねえの。」
「神崎くん!」
鈴音は淡島の格好くらい場違いな竜星の発言に声を荒げる。
「何もそんな言い方しなくたって…」
竜星は鈴音を心底バカにしたように文字通り見下す。
「わからないなら教えてやろうか?こいつの言ってることは立派かもしれないが、やってることは只の破壊行為だ。猛獣を解き放って、人様の持ち物をぶっ壊す。一歩間違えばそれこそ人の命を奪いかねない…」
「良いではないか。」
竜星の説明を遮ったのは他ならぬ淡島だった。
「この美しい地球を汚し他の生き物たちを虐げる、そんな悪逆非道で思い上がった生物が一匹でも減ることの一体何が悪い。自然を破壊して作られた余計な物たちを自然に還して何が悪い。人類が出現して五百万年、文明を手にして三百年、人間たちは自然を蹂躙し、戦争を繰り返してきた。愚かな人間たちに鉄槌を下す神が現れないなら、今私が立ち上がる!」
淡島は辺り構わず目に入る物全て爆発させ、竜星に掛けられた枷を解き、けたけたと高笑いした。
「…狂ってる!」
いつの間にか戻った紫の髪を靡かせて、爆炎の中笑い続けるどりぃむぼっくすを見て、鈴音は呟く。竜星は杖を振って銀の盾を空中に作り、火の粉と煙を防ぎながら長い鎖を数本どりぃむぼっくすに向かって放つ。しかしどりぃむぼっくすは鎖を全て捕まえ、強く掴んで竜星と釣り合う力で引っ張った。
「神崎竜星くん、私はね、数ある人間たちのなかでも天魔連の魔導師が一番嫌いなんだよ。正義ぶって権力を振りかざす。そんな君は、私の取って置きで痛め付け、殺してくれよう。」
どりぃむぼっくすは両目を閉じて空いている左手の人差し指と中指を揃えて立てた。爆発の煙よりどす黒い、重たい何かがぞわぞわぞわと竜星、鈴音の周りに集まって来た。鈴音の肩に乗っているホーリーがひー、と叫んで柔毛を逆立て鈴音の髪に顔を埋めた。
「忘れてはいないだろうな、ここは動物園。外の世界に恋い焦がれながら、無念と怨みの中で死んでいった動物たちの霊魂が渦巻いている。彼等の怨念に取り込まれながら、ゆるゆると魂を蝕まれていくがよい。」
煙によく似た影は犬猫を始めとするあらゆる動物の形を取った。影は竜星に鈴音に雪だるま状に巻き付いてくる。
「キャッ!」
影の癖にやけにソリッドな感触。それでいて生きた哺乳類とはかけはなれたぬたっとした肌は温もりの欠片もなく、寒空の下放っておいた金属のように冷たい。それは粘着質に皮膚から体内に入り込もうとしているかのようにまとわりついてきた。鈴音は影を振りきろうとしたが、スライムを満たした浴槽の中で動くのと同じくらい難しい。力尽くでやっとのことで切り裂いても、そばからぬちゃりと音をたてて体がくっつき、元に戻ってしまう。もがいている内にも立体感のありすぎる影は、鈴音の口や鼻のところまで登ってきて息を塞ごうとした。
「待て、そいつは関係な…」
鈴音から少し離れたところで同じように霊魂たちに囲まれて身動きが取れなくなった竜星が叫ぶが、その声さえ塞がれて竜星はほどなくたこ焼きの具のように丸く包み込まれて姿が見えなくなった。あれでは魂を蝕まれる以前に窒息死してしまう。
「竜星、鈴音ー!!」
一匹だけ残されたホーリーナイトが声を限りに主人を呼ぶ。しかし所詮は無力な子猫の姿で何ができるわけもなく、主人と新しい仲間である鈴音が徐々に絞め殺されていくのをただただ見守るしか出来なかった。そんなホーリーに手を差し伸べるどりぃむぼっくす。ラバー地に身を包んだ男は赤い唇で嗤った。
「ホーリー君、君は猫又だ。殺したくない。それに人間と同等の知能を持ち、ある程度の魔力もある君は私にとって良いパートナーになるだろう。どうだ、私と共に来ないか?間もなく死ぬ元主人よりは余程親切に君を扱うことを約束するが。」
ホーリーはゆっくりと振り向いた。赤い瞳に嫌悪と怒りが灯っていた。
「ふざけんな、誰がお前なんかと。俺は猫又、人に従って生きるようには出来てないのさ。第一俺はお前が考える理想の世界で生きるなんざ、まっぴらごめんだよ。」
どりぃむぼっくすは黙ってホーリーを見下ろしていたが、やがてあきらめの息を吐いた。
「そうか、残念だな。」
そのまま黙ってその場を立ち去るかと思われたが、どりぃむぼっくすはおもむろにホーリーに杖を向けた。
「私の魔法は爆発系だが、魔力を強化させるための決まりでね。生き物を爆発させることはできないんだよ。」
漆黒の杖先がホーリーが首に巻いている緑に赤の線が一本入ったネクタイに定まる。
「素敵なタイだが、それも残念なことになるな。」
ネクタイが青白く光りだし、パリパリと音を立てる。ホーリーの瞳に恐怖の色が走った。
「私の情報を知ってしまった以上、君を生かしておくことは出来ない。せめて苦しまずに一瞬で逝くがいい。」
ホーリーの体が宙に浮かぶ。エネルギーを極限まで溜めこんだネクタイが丸く膨れあがる。もうだめだ。俺は死ぬ。ホーリーは再び叫んだ。
「りゅーせーい!」

sashie6

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Posted at 19:04 | マダム沌夕 | COM(0) | TB(0) |
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