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2008.08.31

操り人形ピノの冒険

世界一下らない童話 操り人形ピノの冒険
昔々あるところに、ゼベットさんと言う貧しい人形師がおりました。ゼベットさんは偏屈であっちの意味での子供好きだったため、こんな良い年になるまで妻もなく勿論子もなく独り身で過ごしてきました。しかし彼は辛くはありませんでした。狭くてボロい掘っ立て小屋には必要最小限以下の家具と日用品、そしてこの半世紀の間コツコツ作り貯めてきた美少女人形が所せましと並んでいましたから。仕事を終え家に帰るとゼベットさんは小屋を見回しこう言うのです。
「ただいま君たち!我が桃源郷!!やはり君たちはいつみても可愛らしい!!!」
「…」
ゼベットさんがいくら彼女たちを誉めても讃えても彼女たちは何も返事をしません。にこりともしません。そりゃそうです、彼女たちは人形。大小合わせて百体くらい「ありました」が「いる」ではないのです。木製や石膏製の冷たいボディではゼベットさんに微笑みかけることは愚か立って歩いたり息をしたりする事すら出来ないのでした。好きでこの仕事を選び、好きで孤独な人生を選んだゼベットさんですが、彼は時に無性に虚しい気分になるのでした。 ある日、ゼペットさんはまた新しい人形を作ろうと思い立ち、知り合いの木こりから値切って値切って値切りまくった木材で作品を作り始めました。ゼペットさんは穿ち、削り、彫り、叩き、食べることも眠ることも忘れ、三日三晩が経ちました。
「ついに出来たぞ。」
ゼベットさんの目の前には、妖しい程に美しい少女が座っていました。滑らかで輝くばかりの月光の如く白い肌は、木から彫り出されたものとは思えないほどのリアルさ。それでいてリアルではあり得ないほど彼女は完璧なのでした。
ゼベットさんは彼女にピノと言う名前を付けました。ゼベットさんは上等な黒い絹織物を買い、凝った造りのドレスを誂え、ピノに着せました。余った布地はレースも付けて、ヘッドドレスにしました。ついでに丸っこい黒い靴とレースの靴下も作って履かせました。ゼペットさんはそれで満足し、それからまたちょっと虚しい気分になりました。だって、どんなに可愛くてもリアルでも、彼女は人形。自分の理想が反映されているため、ゼペットさんの人形たちはどれもこれも非常に愛らしいのですが、彼女らの可愛い唇から愛の台詞が紡ぎ出されることはなく、彼女らの滑らかな肌は固く冷たいままなのです。
「ああどこかにこの子たちのように可愛くて家事も万能で私にぞっこんな美少女(美幼女でも可!)はいないものだろうか…」いたらすかさず連れて帰って可愛がりつつ好みの女性に仕立てあげるのに。それは犯罪です。 ある夜のことでした。ゼペットさんがいつものよーに少女人形に囲まれて穏やかな眠りに就いていると、壁の隙間からカマドウマが入ってきました。カマドウマは言いました。「切ねえな、いい大人がともに笑うこともともに泣くことも出来ないお人形さんなんかをこんなに大量に作って喜んでるとは。」すると、横に突然現れた青い髪の妖精が言いました。「そういう形の愛もあるってことよ。」肩…?を竦めるカマドウマに対し妖精は続けました。「ま、お伽噺のヒーローとヒロインは王子と姫とは限らないってこと。ここは一つ、この偏屈親父の願いを叶えてあげましょう。」青い髪の妖精は杖を取りだし、虚ろな目をして座っているピノに向けてひとふりしました。ぱあっとこの汚い掘っ立て小屋の中が虹色の光に照らされ、ピノは糸もないのにゆっくりと立ち上がりました。「誰かいるのか?!」急に辺りが眩しくなったこと、騒がしくなったことで目を覚まし
たゼペットさん。虹色の光を浴びて、自分の足でしっかり立っているピノを見つけ、びっくり仰天しました。「お、おまおまお前、た、立てるのか?」我ながらばかばかしい質問だったとゼペットさんは思いました。ピノはこくんと頷き、「はい、お父様」と確かにそう口を聞きました。「お、お前喋れるのか」馬鹿馬鹿しい質問パート2。「正確には私が動いて話せるようにしたのよ。たった今ね。」青い妖精が半分呆れたように言いました。「でも動いて話せるイコール人間じゃあない。人間足るもの、愛し愛されることを知らなければ。つーことで、この娘が完璧な人間になれるかどうかは今後のあんたと彼女次第。」カマドウマが偉そうに口を挟みました。「と言うことは、私とピノが心から愛し合えば彼女を人間にしてくださると…?」コミュニケーションが取れるようになったピノですが、やはりその肌は無機質なまま。人間独自の温かく柔らかな肌とは程遠いのでした。「妖精は頷いて、「でもピノがついに人間らしい愛を手に入れられなかったらまた人形に戻しちゃうわよ。カマドウマ、お前はピノの近くにいて二人をサポートしなさい。」そう指図した妖精に対して、「ええー
っ??!」と抗議したカマドウマでしたが、妖精の険しい表情を見て、口をつぐみました。「と言うことで私は帰るから。ゼペットさん、あんまり度が過ぎた事しちゃうと嫌われちゃうから、程ほどにね。」妖精は杖をもうひとふりして、最初から居なかったかのようにふっと消えてしまいました。あとに残されたはピノ、ゼペットさん、カマドウマ。「ま、仲良くやろうや、ピノさん、ゼペットさん。」カマドウマが長い触角をふりふりしました。それから三人(うち二人は人外)の奇妙な同居生活が始まったのです。ピノは産まれながらにして家事は万能、今為すべき事を自分から察してその通りに行動しました。ゼベットさんが帰ってきたら出迎えてやり、温かい料理と清潔な部屋を彼のために用意しました。その様子は親子と言うより完全に年老いた夫と幼妻。外を歩けば村人たちはピノには思慕の熱視線を向け、ゼベットさんには犯罪者と罵倒の言葉を浴びせかけました。互いに思い思われ、仲睦まじい二人は、誰が見てもこの上無く幸せそう。ただ二人には、たった一つ、大きな問題があったのです。 ピノには、最も根本的で最も大切なものが欠けていたのでした。人間が持ち得て人形は持ち得ないもの…そう、ピノは心を持っていなかったのです。従ってゼベットさんを愛する事が出来ません。ゼベットさんに微笑みかけることも出来ません。ゼベットさんがどんなにピノを可愛がっても愛しても、ピノはそれを返すことが出来ませんでした。
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Posted at 16:46 | マダム沌夕 | COM(1) | TB(0) |
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