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2007.11.30

擬勢 fakester ep2

偽りでもいい。見せかけでいい。そのぬくもりが、欲しかった。
居心地のいい夢を見つけたけど、どうやらいままでの行いが悪かったみたいだ。
僕は、起きなきゃ。

無機質な地下通路は、見ているだけで息がつまりそうだ。こんな所に仕事場を構えたのは、間違いだったかなぁ、と少し後悔した。この味気ない空間を抜けて高級ホテルに待たせている『アキ』に会いたい、そんな気持ちが足を急がせる。「なぁ、ここ息詰まるよな?笹木」僕は後ろにいるであろう右腕の男に話しかける。笹木は一言「私は居心地がいいです」とだけ言った。
笹木は僕の後見人ような存在だ。義務教育を終えた、なんの後ろ盾も技能もない僕をこの世界で食べていけるようにしてくれた人間で、どうやって知り合ったのかは、残念ながら覚えていない。その笹木が、不意に僕を引き留めた。
「諸星。話があります。」
「なに?僕早く『アキ』のところに行きたいんだけど。今日やたら疲れたんだもん」
「その『アキ』についてです。」
足が、止まった。
「貴方が愛人を持とうが、何しようが、それが貴方の幸せなら、口を出しません。しかし、あの人間とは、失礼ながら関係を絶ってもらいたいと思っています。」
僕は振り返って笹木を見据える。笹木は会社を統括する頭目にさえも厳しい視線を向けている。ああ、正論の目だ、と思った。
「あの人間が来てから、社の傘下が少数ずつですが、確実に潰されています。勿論それだけで決めつけられることではありませんが、貴方と接触した後の不審な行動を部下が目撃しています。情報が漏れているとも考えられるでしょう。貴方の下には社に携わる何百人の人間がいるのです。そのことを忘れないでください。」
「……」
「なぜ、あの人間なのですか?人恋しいのなら、一夜ずつ契約すればいいはずです。何が、貴方をそこまで執着させるのですか?」
僕は肩の力を抜いた。
「笹木。『アキ』のことを『あの人間』なんて呼ばないでよ。『アキ』は僕の大事な人なんだからさ。」
そういって踵を返す。そのまま振り返らずに、ホテルに向かおう。
笹木がなおも疑問を投げかけてくる。僕はそれをすべて無視した。


「諸星。本当に『アキ』という人間は存在したのですか?」


いるわけないじゃないか。親の顔さえまともに見たことのない僕に、。
これは、僕の、夢だ。
『アキ』の腕を抱えながら、僕は昨日の笹木との問答を思い出していた。


僕は、温かさを求めていた。両親の記憶は殆ど残っていないからかもしれない。
僕は、パソコンに囲まれて生きてきた。そのうちあらゆる会社のコードを読み取り、突破し、情報を漁るようになった。周りからは「天才」と驚嘆され、「情報兵器」と畏怖され、良くも悪くも一目置かれるようになった。それは、会社を立ち上げても変わらず、部下も金も沢山手に入ったけれど、僕を撫でてくれる手も抱きしめてくれる腕もなかった。
女を買って、抱きしめてもらった事もあったけれど、違和感があって、僕の求めているものではなかった。違和感の理由は、その時は分らなかったけれど、一週間前のあの日、『アキ』と会った時に、判明した。

僕が求めていたもの。
仕事ではなく、ちゃんと抱きしめてくれる腕。
日の下に生きて、ちゃんとした家庭で生きたことがある雰囲気。
僕が僕で居られる相手。
僕は『アキ』と会って、自分の求めていたものを知った。
そして、『アキ』は僕の夢を受け入れてくれた。

正直、この一週間が、僕の一生分の自由だったと思う。『アキ』とオセロを11戦したり、滅多に使わない金でケーキをワンホール買って、笹木と『アキ』を困惑させたりした。
甘いものがあまり得意ではない笹木に、ケーキ4切れは気の毒だったと今更ながら思う。
なにより、『アキ』の腕を抱いて寝ると、僕はこの上なく落ち着いた。『アキ』の体温と血液の流れを感じていると、いつの間にかぐっすり眠れていたし、『アキ』が子供をあやすように撫でてくれる手は、本当に泣きたくなる程優しかった。

だから。
僕は『アキ』に感謝を示そうと思う。僕の命を捧げよう、そう思う。
『アキ』が本当はどんな役職で、どんな目的で、僕のそばにいるのか知っていた。僕は自分が手を下した人間を、忘れるようなことはしない。

『アキ』、いままでありがとう。僕は、夢から覚めるよ。

目を開けると、『アキ』はなぜか泣いていた。やっぱり、押し付けだったのかなぁ、と頭の隅で僕が呟いた。
僕はわざとらしく、でもしっかりと背伸びをする。

これから、ちゃんとお返ししないといけないのだから、当然だろ。

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Posted at 17:52 | 妖獣きまま | COM(4) | TB(0) |
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