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2007.08.29

妄想日記 「約束」

あの日、素直に行けば良かった。
あの日、喧嘩しなければ良かった。
あの日、約束しなければ良かった。

「・・・行ってあげないのか?」
私の隣にいる彼は控えめに言った。
緑が覆うように茂っているこの公園は昼間でさえもどこか薄暗い。
その様子から巷では「出る場所」と有名で、人通りもその噂に比例してとても少ない。私たちはそんないわくつきの公園のベンチに座っている。
ベンチからは正面の池が一望できる上に、開けた場所であるためにその先にある大きな銅像も、そこに立つ「彼」の姿さえもはっきり見渡すことが出来た。
「いいのよ。どうせ行ったって分からないもの。」
私は半ば投げやりにそう行った。時間を戻せれば、何度そう思ったか分からない。
あの日、いつものようにデートの約束をした。あの時だけ、私はいつものハチ公ではなく、待ち合わせにあの公園を推した。その日は「彼」の誕生日で、私はあの公園の近くのフレンチレストランに予約を入れていたのだ。でも、それが原因で喧嘩になった。「彼」はハチ公を定番にしていたから譲らなかったし、私もサプライズにしていたかったから、譲らなかった。そして、当日。なんとか押し切ったものの、ムカムカしていた私は「彼」に意地悪してやろうという気持ちが起きた。
…ちょっと遅刻して困らせてやろう…そう思い、私は予定の時刻にわざと遅れるように迂回する裏路地ばかりを歩いていった。
まさか、こんなことになるなんて、思っても見なかった。
「行ってやれ。」
今度ははっきりとした声が隣から聞こえた。
「行ってやれよ。こんなところで見つめてたって何も変わらないことぐらい分かってるんだろ?後悔してても、何も始まらないし、終わらねぇよ」
「行ったって、どうせ分かってもらえない。」
「なら、なんでわざわざ見えるところに座ってるんだよ。謝るために来たんだろ。」口を噤むしかなかった。やがて半ば追いたてられるようにしてベンチを離れた私は、ゆるゆると銅像の方へ歩いていった。「彼」は青いブラウスに、デニムのジーンズを着ている。彼のお気に入りの服だ。「彼」は両目を硬く閉じていて、まるで修験僧のようだ。私は「彼」の正面に立った。不安と期待といろんなものがごちゃ混ぜになって、公園の風に吹かれていった。
彼は一瞬顔を上げたかと思うと、
「……真耶?」
私の名を呼んだ。
気がついたら、私は「彼」に抱きついて、ひたすら謝っていた。ごめん、ごめんね、わがままいってごめん、遅くなってごめん、でも、周司のこと、今でも好きだよ。
周司はされるがままにしていたけれど、やがて口元に笑いを浮かべると、風のなかに消えていった。

周司は待ち合わせの日、私が遅いのを心配して、迎えに来ようとした途中にバイクに突っ込まれて死んだ。彼はその時点では両目を失明しただけで済んでいたけれど、その他の出血がひどくて、結局助からなかったらしい。後から聞いた話で、周司は私が「視える」人だから、疲れさせないように、噂の絶たないこの公園を嫌がった事を知って、私は逃げた。私のせいでボロボロになった周司から逃げた。現実から逃げた。周司はいつでも約束の場所で待っていたのに。
「スッキリしたかよ」背後で弟の孝の声がする。私は振り返ると流れていたものを袖で一気にぬぐった。

でもやっと、こうして約束を守ることができた。

周司、また会おうね。今度はお盆に。約束だよ。
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Posted at 19:08 | 妖獣きまま | COM(7) | TB(0) |
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